vol.158

07.09.26

ヘレステスト「今までと違うコンセプトの
パッケージを、テストしました。」

日本、中国と続くアジア2連戦、さらにブラジルでの今季最終戦を見据えて、Honda Racing F1 Teamは先週、スペイン・ヘレスで3日間のテストを行った。シーズン中としては、これが最後のテスト。チームはまったく新しい空力パッケージなど、数多くの改良パーツをサーキットに持ち込んだ。

―3日間のテストは盛りだくさんのメニューだったようですが、どんな手応えを得ましたか。
 単刀直入に言うと、あまりうまくはいかなかったですね。今回は日本GPに投入する空力パーツの確認が、一番の目的でした。ただし今までのように、単にフロントウイングなどの形状違いを試してダウンフォースを上げるとかそういうことではなく、今までとは違ったコンセプトのものをいろいろとテストしました。ですから本当にこれが戦闘力向上に効果があるのか、そこから確かめる必要がありました。さらに効果があることがわかったとしても、それに合わせた車体セットアップも見つけないといけませんから、その二つの課題を限られた3日間でこなさないといけないわけです。

―今までと違うコンセプトというのは、来年用の空力パッケージを今年のマシンに移植するということですか。
 そうですね。来年のコンセプトを、今年のクルマに適用したわけです。初日のバリチェロはそれを試し、2、3日目のバトンは新型と従来型両方のパッケージの比較テストをしました。初日は効果の確認と、ある程度それに合わせたセットアップを見つける作業に忙殺されました。バリチェロ自身のコメントは、「セットアップはまだまだできていないけど、マシン自体のポテンシャルは感じる。この延長線上でいくことに、自分は賛成だ」というものでした。ただ、タイム自体は、あまり伸びませんでした。
 そして翌日からのバトンは、バリチェロがこれなら何とか走れるかというセットアップを基に周回を重ねたのですが、あまりいい感触は得られませんでした。やはり現行マシンの方が、いろいろ問題があるとはいえ、熟成は進んでいますからね。富士をどちらで走るかというときに、新バージョンはまだレースを戦える段階ではない。まだまだ改善が必要だと判断しました。

―潜在的な力はありそうだとはいえ、準備不足ということですか。
 たった3日間のテストで、これまで一年近くかけてやって来たマシンをしのぐというのが厳しいというのは、事前に心配していた点でした。今年からテストでは、1台しか走れないですしね。でもわれわれとしては、それに賭けるしかありませんでした。そして結果的には、難しかったということですね。

―バリチェロはそれでも、ブレーキング時の安定性などは改善されていると言ってます。
 ええ。そうですね。挙動は安定します。ただ絶対的なタイムは、現行マシンの方が優れています。

―たとえ運転しにくくても、今のマシンの方が速い?
  そうですね。それはテスト前から、ある程度予想していたことではありました。というのも今年のマシンがまさにそうなんですが、どんなに性能が高くても、ごくたまに急激に挙動が変わってしまったりすると、ドライバーとしては思いきって攻められません。だったら、性能は落ちても安定して走れるマシンの方がいいんじゃないかと、それが今回持ち込んだものだったんですね。その意味ではある程度狙い通りだったのですが、タイムがもうちょっとほしかったですね。これからファクトリーでデータを分析して最終的な決断を下しますが、(終盤3戦は)これまでのマシンでいくんじゃないでしょうか。
 ただ足回りなどの見直しを行って、こちらも正常進化を続けていますから、次の富士には積極的に入れていきます。その効果への手応えは、感じていますよ。

【プロフィール】 長谷川 祐介(はせがわ・ゆうすけ)
1963年12月1日生まれ、東京都出身。
1986年Honda入社。量産車のエンジン開発や将来パワープラントの研究を経て、2002年よりシステム開発責任者としてF1に携わる。現在は、ホンダ・レーシング・ディベロップメント(HRD)チーフテストエンジニアとして、テスト全般を統括する立場である。