今回、久しぶりにスパ・フランコルシャンで走ったのですが、テストの3日間は典型的なスパ・ウェザーに翻弄されたという感じでしたね。降ったり止んだりの繰り返しで、特に2日目は路面が乾き切ることがなくて、この日に担当したジェンソン・バトンはほぼウエットタイヤで走り続けました。
−予定していたメニューは、すべては消化できなかった?
そうですね。ただ今回は2年ぶりのスパということで、何か新しいパッケージのテストというよりは、各ドライバーがこのサーキット用のセットアップを見つけ出すことが、主な目的でした。そういう意味では、多くのデータを収集できて、有意義なテストだったと思います。
−コースも改修され、ワンメイクのブリヂストンタイヤ、V8エンジンで走るのは初めてでした。
ええ。特にエンジンはV8では初めてということで、どれだけの負荷がかかるか。シミュレーションではもちろんやってきたのですが、実際にどれぐらいなのかを確認することも、大きな目的のひとつでした。
スパといえば、あの壮大なオールージュが有名ですが、V8では全開で上り切ってしまいます。ドライバーからも、「特にトルク不足は感じない」というコメントをもらいました。1コーナーの立ち上がりからオールージュを駆け上がって、レ・コンブのブレーキングまで、ずっとエンジン全開が続くわけです。これは、インディアナポリスの全開時間を抜いて、全17のサーキット中最長ですね。エンジン全開頻度でいうと、イタリアのモンツァが一番長いのですが、エンジンに対する負荷のかかり方の大きさでは、スパの厳しさはモンツァに匹敵します。
そこを3日間走って、目立ったトラブルもありませんでした。エンジンに関しては信頼性も含め、大きな収穫を得られましたね。
−タイヤはどうでしたか。
4種類のスペックのうち、スパではミディアムとソフトが選択されているのですが、ソフトはグレーニングがひどかったですね。ただ路面がまだ非常に悪くて、オイルも浮いていました。舗装したてという印象でしたね。これからGP本番までの2カ月間に、どれだけこなれてくるのか、それによってずいぶんコンディションは変わってくるでしょうね。
−今回は新しい空力パッケージは、テストしたんですか。
前回のポールリカール、ヘレステストほどではありませんが、ある程度の空力パーツはテストしました。ただここで試したものを、次のニュルブルクリンクに投入するかどうかは、まだわかりません。コース特性も、ずいぶん違いますし。
今回のテストは、マシンの各部がこのサーキットでどう機能するか、それを確認したという意味では、収穫の大きいものでした。ただ実際の戦闘力の点では、こういう高速コースは空力性能の優劣が明確に出てしまいますから、3日間のラップタイムは今の実力をほぼ反映してトップチームに対して大きな差がありましたね。問題点もいくつか見つかりましたから、これから9月の本番に向けて一層の改良を加え、1日も早く状況を打開したいと思います。
【プロフィール】長谷川 祐介(はせがわ・ゆうすけ)
1963年12月1日生まれ、東京都出身。
1986年Honda入社。量産車のエンジン開発や将来パワープラントの研究を経て、2002年よりシステム開発責任者としてF1に携わる。現在は、ホンダ・レーシング・ディベロップメント(HRD)チーフテストエンジニアとして、テスト全般を統括する立場である。