14、18番手という後方グリッドから、どこまで前に行けるか。マシンの速さは足りませんが、ロングランペースは安定していますし、タイヤも問題ないのはわかっていました。それで1回ストップ作戦を選びました。当初予想していたより前の順位でフィニッシュできましたし、残念ながらポイントは取れませんでしたが、作戦は成功だったと思っています。
−バリチェロに比べると、バトンのペースがちょっと遅かったですね。
燃料も若干重めだったんですが、それにしてもペースが伸びませんでした。レース序盤からアンダーステア(曲がりにくい)症状を訴えていました。と同時に、リアも不安定でしたね。クルマが全体的にまとまってない印象だと、本人は言っていました。
1週間前のマニクールでは、予選はともかくレースペースは悪くありませんでしたし、クルマもまとまっていました。それが今回は、仕上がりが悪かったです。やはり初日午後に走れなかったことで、煮詰め作業が遅れたことが響いたんでしょうね。予選前には、バリチェロのセットアップを参考に、クルマに変更を施しました。でもバリチェロが、「現時点でのクルマの性能を100%引き出した」と言っているのに対して、バトンは探りながらの走行で、攻めきれずに終わってしまったという印象です。レースも、同じ感じでしたね。
−今回ロングランで、フランスGPほどの速さが出せなかったのは、どうしてだったんでしょう。
バトンもレース後、「どうしてだったんだろう」と首をかしげていました。マニクールでは、クルマの挙動変化を自分でしっかりつかみながら、攻めていけました。それがここシルバーストーンでは、1周前はこうだったのに、今度は急にアンダーが強くなるとか、クルマのバランスが不安定でしたね。その結果、周回タイムにばらつきが出て、全体のペースも伸びませんでした。これについては、データを解析して次のレースに向けて改善していきたいと思います。
ただそれ以前の問題として、ダウンフォースの絶対値が低いことはありますね。それがすべてに、影響してきています。もちろん改良を施したことでダウンフォースは増えているのですが、まだまだ足りません。それがちゃんと付けばリアがもっと安定して、予選とレースの設定の幅が広がるはずです。ところが現状では 予選の速さを追求すると、レースバランスが成り立ちません。逆にレースでキッチリ走れるようにすると、ニュータイヤでの一発の速さが出ません。それはすべて、ダウンフォース不足から来ることなんです。そこを少しでも早く何とかしないと、トップには追い付けないですね。
【プロフィール】 田辺 豊治(たなべ・とよはる)
1960年5月12日生まれ、東京都出身。
1984年Honda入社。入社直後の1年間を除き、常にF1、CARTなどのレース現場の第一線で活躍。
現在は、ホンダ・レーシング・ディベロップメント(HRD)レーステストマネージャー兼ジェンソン・バトン担当エンジンエンジニア