今回はバリチェロ2回ストップ、バトン1回ストップと、戦略を分けて決勝レースに臨みました。スタート直後の1コーナーで、二人が接触してしまったことがすべてでしたね。その後バトンはペースが上がらず、さらにピットインで給油リグにトラブルが出てしまい、大きくタイムロスしてしまいました。シミュレーションでは1回ストップ作戦がベストだったんですが、そのアドバンテージを活かすことができませんでした。
−二人がぶつかったのは、どんな状況だったんですか?
バリチェロがまずスピンした(ラルフ・)シューマッハを避けようとして、(デビッド・)クルサードに接触、その後行き場所を失ってバトンと接触してしまったようですね。それでバトンの車は空力パーツを破損して、バランスが悪くなってしまいました。無線でも何度も、「アンダーステアだ」と言ってましたから。そんな状況で団子状態の中に入り込んで、身動きが取れなくなってしまいました。
−二人が作戦を分けたのは、セイフティカーが出る可能性を考慮したんですか。
そうですね。こう言ってしまっては何なんですが、キッチリ戦えるクルマなら、たとえばマクラーレンのようにシミュレーション通りの戦略を、2台ともに適用できますが、今のわれわれの戦闘力では、2台とも同じ戦略を取ると、揃って沈んでしまう恐れがあります。そこで、ドライバーも交えたエンジニア会議で話し合い、戦略を分けて臨むことにしました。こんなふうにするのは、今回がおそらく最後になると思いますけどね。
−「今回が最後」というのは?
ええ。次戦フランスGPからは、もっとクルマが良くなるのを期待してのことです。
−その手応えは、かなりあると?
まだ実際に走っていませんから、断言はできませんけどね。まずは今週、スペインのヘレスで走らせて、戦闘力の確認を行います。
−見た目は大きく変わらない?
モナコほどではないと思います。基本的には、空力中心の改良になります。
−他のほとんどのチームは、シルバーストンでテストをします。2週間後のイギリスGPに備えてのことですが、ホンダがあえてヘレスに行くのはどうしてですか?
天候も安定していますし、他のチームの影響を受けず、やりたいことができますからね。とにかく今の状況を改善するために、まずはヘレステストに全力を注ぎます。
【プロフィール】 田辺 豊治(たなべ・とよはる)
1960年5月12日生まれ、東京都出身。
1984年Honda入社。入社直後の1年間を除き、常にF1、CARTなどのレース現場の第一線で活躍。
現在は、ホンダ・レーシング・ディベロップメント(HRD)レーステストマネージャー兼ジェンソン・バトン担当エンジンエンジニア