ジェンソン・バトン ダイアリー 2007
3月

 中国GPは本当にうれしかった。エキサイティングだったし、僕が5位に入ったことで、ホンダ・レーシング・F1・チームの士気も高まった。
 厳しいレースだった。最初のスティントで僕のウェットタイヤがオーバーヒートしてしまって、あっという間に溝がなくなった。周りのマシンと比べると、僕のマシンはほとんどグリップがないも同然。10番手スタートから16位まで順位を落としてしまった。
 そうこうするうちに乾いたラインができてきたから、すぐにピットに入ってドライタイヤに履き替えた。ピットから出て最初の周回は走りづらかったが、タイヤが温まってくるとかなり速くなった。それからはとにかくどんどん抜いていって、一時は4位に浮上した。その後2番目と最後のピットストップの間に1つ後退して5位フィニッシュだ。
 僕にとって、5位というのは、いつもの年なら決していいと思える成績ではない。でも今回の上海では満足だった。うまく走れたし、4ポイントをとることができたから、チームのポイントに貢献できた。

 前回このコラムを書いてから1ヶ月、とても忙しかった。イタリアGP翌日の朝にはイギリスに飛んで、チームのエアロダイナミシストたちに会った。来年のマシンの開発にとって重要な時期だったから、進行状況や今年のマシンのどの部分に改良を加えなければならないかを話し合った。
 それからは翌週のベルギーGPに気持ちを集中した。RA107のスピードについて言うと、前週のモンツァほど良くはなかった。第2予選で良い走りができてなんとか14番手スタートだ。レースではずっと中盤争いの中にいたのだけれど、36周で油圧系のトラブルでリタイアしてしまった。
 スパの2日後にヘレスへ向かって2007年最後のテストに参加した。来年向けの新しい空力パーツを試す、重要なテストだった。このパーツをつけてRA107のパフォーマンスが大きく変わったわけではないが、完全に風洞での予測通りの結果が出たことでチームも力を得た。風洞とサーキットがきっちり相関していることが、強いマシンを作る上で重要だから。
 翌週月曜にはお台場でモータースポーツフェスティバルがあったから、それに間に合うように日本に着かなければならなかった。日本GP前に開かれるイベントだ。日本のファンにとっては、F1マシンを間近に見ることができる絶好のチャンスだと思う。僕はRA107を走らせて、何度もドーナツをやって見せたので、最後にはリアタイヤが完全にすり減ってしまっていた!
 その後は、毎年恒例、日本GP前のHondaの記者会見。チームメートのルーベンス・バリチェロと僕、そしてスーパーアグリの2人のドライバーも出席した。その日は日本のメディアからの質問に答えてほとんど一日が終わった。大変な仕事だったけれど、でも東京はすごく楽しい。世界の中でも好きな街の1つだ。見るものもやることもたくさんあるし、食事が最高。僕は世界中どの場所にいても、必ず日本食の店を探す。だから日本に来ると本場の美食を満喫する。
 レースに向け、木曜の朝、車で富士スピードウェイへ。このサーキットには感心した。あの1.5kmのストレートは特別な感じだ。それ以外の部分も技術的に難しいところが多くて、走っていて楽しかった。
 金曜日は、このGP唯一のドライ走行だった。土曜日は雨。あまりに霧が深くて、最後のセッションは諦めなければならなかった。でも、僕としては雨のレースは大好きだし、グリッド6番手というのも満足だった。レースでの天気はひどかった。19周もセーフティカーの後をついて走りサーキットのコンディションが良くなるのを待った。いざゴーサインが出てからも、あまりにびしょびしょでレースにならないんじゃないかと思ったほどだ。あちこちで水上スキーのように滑ってしまい、視界も最悪。コース上にいる他のマシンが見えない。
 僕は、まずニック・ハイドフェルトとぶつかってフロントウィングが壊れた。でもそこから2周は何とか5位をキープして走っていた。土砂降りの雨と霧で、ニックも僕が見えなかったのだと思う。結局、最終周でも佐藤選手とぶつかってサスペンションが壊れ、リタイアとなってしまった。
 レースの後も2日ほど東京に残った。買い物をして、おいしい日本食をたくさん食べた。そして、ビートルズの日本人コピーバンドのライブを見た。演奏は素晴らしくて、最高の夜だった。
 水曜日、中国GPのため上海に入り、その夜は英国のメディアをディナーに招待した。このディナーは毎年恒例になりつつある。僕はジャーナリストとは良い付き合いをしているからこの時も楽しかった。
 レースが終わるとすぐに中国を出て、オーストラリアのバイロンベイへ。ここで2週間のトレーニングキャンプだ。トレーナーのフィル・ヤングがハードなプログラムを立ててくれたから、体調を万全にして、インテルラゴスでの最終戦に臨めると思う。

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