ジェンソン・バトン ダイアリー 2007
3月

 僕らが転戦している間、ホンダ・レーシング・F1・チームのエンジニアとデザイナーたちは昼も夜もなくRA107を進化させようと働いてきた。その作業は確実に前進している。モナコGPでは、マシンに少しパフォーマンスのアップグレードを施しただけで、空力効果が高まり、ブレーキング時の安定感もグッと増した。おかげでマシンはドライビングに一貫性が出て、ロングランでのスピードが速くなった。
 次に大きくアップグレードするのは、フランスGPになる。インディアナポリスのあとにテストする新しいパーツが、マシンを大きくステップアップさせてくれるはずだ。
 いまRA107に生じている問題を克服しなければ、来年のマシンのデザインを考え始めるどころではない。それが実現しつつあることを願っている。
 ファクトリー以外でも、忙しいひと月だった。スペインGPで12位でフィニッシュしてから、モナコの自宅に戻り、トレーニングばかりして過ごした。F1用の通常のトレーニング以外に、自転車でのトレーニングをこなした。6月の最後にあるグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでのタイムトライアルに備えてのトレーニングだ。短い坂道を一気に駆け上るのは、ものすごくタフなのだけれど、そのつらさがまた快感だ。
 その後は、ポールリカールでの1日のテスト。低いダウンフォース用のスペックでRA107を試した。長い距離でのいいセットアップが割り出せ、開発が大きく進んだ。これは朗報だ。それからまたモナコまで車で戻り、トレーナーのマイルス・ジョンソンが着くのを待った。週末は彼とトレーニングだ。
 次にモナコGP。このレースですばらしいのは、何といっても、飛行機に乗らないで現地に行けるところだ。でも、モナコに住んでいても、GPの間は自宅では過ごさない。僕のアパートはモナコを出るトンネルの向こうにあるのだけれど、F1パドックまで車で行こうとするとものすごい数の人と渋滞で、ひどく時間がかかってしまう。だから、コロンブス・ホテルに泊まった。親友のデビッド・クルサードがオーナーのホテルだ。

 予選はいい出来だった。チームメートのルーベンス・バリチェロも僕も、今年初めてQ3まで進めた。得点圏内も狙えると思ったが、そうはいかなかった。スーパーソフトタイヤの寿命の見積もりが甘かった。それでも、僕らにとっては今季最高のGPだった。
 モナコのあと、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのタイムトライアルに向けてまた少しトレーニングをしてから英国に飛んだ。PRイベントのためではあったけれど、少し早めに英国に入って、グッドウッド・ハウスの目の前の丘を自転車で登るトレーニングをした。元英国のプロ自転車選手サラ・シミントンが一緒に来てくれて、どういうペース配分で丘を上ったらいいかを教えてくれた。
 翌日は、シルバーストーンで、2つのテレビ番組の撮影。
 それから2日間は英国にいて、GPの週の月曜日にカナダへ飛んだ。モントリオールはすばらしい街だ。いいレストランもあるし、素敵な店もある。いい感じの土地だ。
 レースに向けて、黙々とトレーニングに打ち込んだ。毎日トレーニングをし、買い物やいいレストランでの食事でリラックス。そして木曜日、ルーベンスと一緒にクレシェント・ストリート・フェスティバルに出席して、これがGPの週末の幕開けとなった。Hondaの「ASIMO」にも会った。「彼」にとっては初めてのGPだそうだ。
 サーキットでは、予選でグリップのなさに苦しみ、15番グリッドとなった。そして結局、ギアセレクションのトラブルでグリッドからスタートできないままレースを終えることになってしまった。1速に入れようとしたんだけれど、反応なし。それでも、ニュートラルから1速に入れてトラブルを解消しようとし続けたのだけれど、どうにもならなかった。ピットレーンからスタートしようとしたときも同じで、もうリタイアするしかなかった。どうしようもなく残念だった。
 チームとしては、カナダGPのことをくよくよ考えず、次の週末、米国GPに向かって準備を進めるしかない。その後は、フランスGPだ。そこでは、RA107に新しいパーツが導入されるのだから。
< BACK