ジェンソン・バトン ダイアリー 2007
3月

 チームにとって2月はとても忙しい月だった。サーキットでは、3月18日メルボルンでのシーズン開幕に向けて最終調整に入った。またサーキットの外では、新しいカラーリングが発表された。あの地球のデザインは、インパクトがあって素晴らしいと思う。ユニークなデザインというだけでなく、これからのF1の方向性を提案するものだ。今回、久々にF1マシンがスポンサーのロゴを付けずに走ることになる。それとともに、環境問題に対する意識を世界中で高めるため、Hondaのスタッフは一丸となって真剣に努力していく。あのカラフルな外観はその気持ちの現われだ。
 ここ数ヶ月で地球温暖化についてたくさん勉強した。それで、僕もライフスタイルを少しずつ変えていくことにした。例えば、空きビンはきちんとリサイクルに出す。またモナコの自宅で必要のない電気は切っておく。それから、ハイブリッドのホンダシビックを手に入れた。いい車だ。ガソリンと電気の両方が動力源となっている。こんなふうに、僕も微力ではあるが環境のためにできるだけのことをしたいと思っている。同じように、テレビでF1を見ている6億の人たちが、少しずつでも生活を見直してくれるようになるとうれしい。
 さて、サーキットでの話に戻ろう。RA107開発は、猛烈な勢いで進んでいった。バレンシアでスタートして、ヘレス、バルセロナ、そしてバーレーン。バレンシアでは天気が悪く開発が進まなかったが、翌週からは太陽が顔を出し、セットアップ、エアロダイナミクス、タイヤと順調にプログラムをこなすことができた。
 RA107は去年のRA106から格段に進歩している。出だしから1周のペースは好調。ロングランではまだフェラーリやマクラーレンほどのペースは出ていないが、マシンのあちこちを調整して着実に良くなっている。新しいパーツが続々と導入されているから、メルボルンで僕が乗るRA107は1月の末に発表したときのマシンとは劇的に違っているだろう。もちろんスピードもアップしているはずだ。

 最終テストを2セット行うため、僕らはヨーロッパを出てバーレーン・インターナショナルサーキットに入った。バーレーンは大好きな国だ。人々はフレンドリーだし、天気も素晴らしい。サーキットも気に入っている。何しろ僕はこのサーキットを初めて訪れたF1ドライバーだ。あれは2003年、まだ建設中だった。とにかくここは、高速シケインなどチャレンジングなコーナーがいくつもあって、ドライバーの腕が試されるサーキットだ。
 バーレーンでのテストは、僕たちにとってこの冬最初の「高気温」走行だった。このテストで、ブリヂストンは新スペックのタイヤを導入した。またオーストラリアで使う空力パッケージでの初走行でもあった。空力構成を新しくしたとたんマシンがぐっと安定し、長距離での信頼性が増したのは好材料だ。
 まだタイムシートでトップにはなっていないが、トップとの差は着実に縮めている。またRA107はかなり信頼性の高いマシンになった。ファクトリーでは皆全力で作業している。これからずっと今の調子で開発が進んでいけば、今年後半のレースでは優勝できるはずだ。
 2月はかなりの時間をサーキットで過ごしたが、モナコの自宅にも何とか2回ほど週末に帰ることができた。フランス南部はどんどん暖かくなってきていて、屋外でのトレーニングもできるほどになった。モナコの丘で自転車とランニングのトレーニングをみっちりと積み、コンディションは万全だ。
 2月はイベントもいくつかあった。特に19日の月曜日は忙しかった。朝7時からホンダレーシングF1のファクトリーで、東京の記者会見に衛星中継で出席したからだ。記者会見が終わると、チームの体験センターに行き2人の少年と会った。僕が支援するメイク・ア・ウィッシュ基金から来たクストファー・セイビル君15歳とライズ・ジョイス君7歳。2人とも難病と戦っている。彼らにファクトリー内を案内できてとても楽しかった。
 その1週間後、新しいカラーリングが発表された。メディアの興味は相当高かったようだ。素晴らしい発表だったのだが、僕はあと2日テストが残っていたため中東に戻らなければならず、長くはいられなかった。
 

そして今、2007年シーズンは準備段階を終えた。ついにレースが始まる。僕はレーシングドライバーだ。レースをこよなく愛している。アルバートパークに飛び出す瞬間の赤ランプが待ちきれない。
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