HondaモータースポーツF1 〉2006年の意気込み

――ドラッグを抑えることとダウンフォースを向上させることは相反するものだと思うのですが。どういう風に実現したのでしょうか?
 床下(車体と路面との間)の空気流れをいかにスムーズに、且つたくさん流すかに取り組みました。そうすることでドラッグを減らしながら、グランドエフェクトによって、ダウンフォースを向上させるわけです。そのためにいろいろなことをやっているのですけれど。外観上わかるところは、フロントサスペンションの部分です。ゼロキール化あるいはキールレスとも言っていますが、ダブルウイッシュボーンサスペンションの取り付け先が今まではノーズの下に1本お迎えを出し、そこにロアウイッシュボーンがついていましたが、それをノーズのモノコックに直接とりつけ、余分な骨組みをなくして空気の通りをよくしたんです。ちょっとサスペンション系が上に持ち上がって、前から見るとハの字に見えますけれど。アッパーウイッシュボーンとロアウイッシュボーン、タイロッドを最適に配置することによって基本特性を悪化させることなく実現しました。

 あとは、フロントから入った空気をいかに横に逃がさないかということもやっています。また、ボディの上からくる空気の流れを下に巻き込まれないような基本フォルムを実現しました。もちろん、リアも変えていますが、見た目にはわかりにくいですね。

 

――やはりHondaの得意な技術であるシミュレーションを駆使したのですか。
 シミュレーションでも徹底的にやりましたが、重要なのは風洞実験ですね。日本でもブラックリーでも施設を十二分に活用し、24時間体制で行っています。今までにない意気込みだと感じていただければと思います。

――エンジンについては。
 絶対エンジン重量だとか、エンジンとしての重心高はレギュレーションで今年は押さえられています。ただ、その中で賢くやるために、補記類の配置を工夫したり、きめ細かなつくり込みをやっています。

 また、エンジンブロックというのはある意味ボディの一部でマシン後半部分の剛性の要になりますから、トータルの剛性で見たとき、エンジンが変な折れ点になってしまっては困るので、全体として剛性が均一になるように配慮した設計にしています。
 あと、回転数とパワーをつきつめると、途中のトルクが低下しピーキーになってしまいますが、吸排気にきめ細かな手を加えながらスムーズなトルクカーブになるよう改良を加えています。直近のテストでは、コーナーの立ち上がりでトラクションがよくついて来るとドライバーも言っていましたので、かなりいい状態だと思っています。

 

――制御系については。
 まずタイヤが違いますし、エンジンも違うので、制御系は一からやり直しの開発になります。制御系については、今までない考え方で、新しいロジックを組み込んだりしていまして、テストでドライバーもかなり納得する制御パターンがみつかっています。もちろん、まだ煮詰める必要はありますが。

――その新しい制御の概念は教えていただけませんか。
 それは企業秘密ということですね(笑)。もちろんコンセプトを持ってやっています。闇雲にということではないです。

 

――開幕前の状態をどう考えていますか。
 客観的に見て、たしかに競争力はありそうだと、みなさんも思ってくださっていますし、我々もそう思っています。しかし、ルノーは依然として速いですね。今のところルノーには一発のタイムで負けています。ロングランでは互角かもしれないですけれど。そこを何とかするよう取り組んでいます。もちろん、他のチームも確実に速くなってきているので、だんだん迫られているというのはひしひしと感じています。開幕まで気を抜かずに、さらに速さを求めていくようにしなくてはなりません。もちろん開幕に向けて掲げている数値目標があって、それはお話しできないのですが、そこにはまだ到達していないので、開幕までに必ず目標達成となるように日夜がんばっています。

 

――最後にご自身のことを少しご紹介ください。
 
Hondaに入社して最初に関わったのは初代レジェンドです。配属されてすぐにリアサスペンションを担当しました。担当してまもなく上司が海外に転勤になり、自分が中心となってリアサスペンションを開発することになり、とても緊張すると同時に強いやりがいを感じたことを覚えています。配属されていきなりサスペンション開発の主担当ですから、Hondaという会社はすごいなと思いましたね。
 レジェンドのマイナーモデルチェンジを少し担当したあと、NSXのプロジェクトに抜擢されました。世界に今までにないスーパースポーツカーを生み出すプロジェクトで、オールアルミサスペンションの開発に携われたことはとても勉強になりましたね。私がプロジェクトに関わった当時は、NSXが実現するかさえ見えない状況でした。でも、全員が一丸となって“絶対に実現してみせる”という気持ちでやっていましたね。すごく熱い気持ちでした。あのオールアルミサスペンションのモチーフになったのは動物の骨で、直線部がないんです。全部複合曲線です。美しいですけれど、図面を書く方は大変でしたね。

 それから、初代のオデッセイに関わり、いくつかの車種を経たあとはマネジメントサイドで四輪の機種全体を見るようになりました。かつて中嶋悟さんがドライバーとして出ていた頃の全日本ツーリングカー選手権(JTC)グループAレースでレースマシンの開発に関わっていたこともあります。
  こんな経歴を持つ私が、F1に携わることとなったのは、ますます車体設計の技術が重要となったからだと思います。2004年から量産車と並行しながらF1には関わっていたのですが、本格的に取り組むのは2005年からです。ぜひ、全力を尽くして勝利を獲得したいと考えています。皆さん、応援よろしくお願い致します。

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