HondaモータースポーツF1中本修平レポート
vol.90 結局はクルマそのものを、速くしていくしかない。



マレーシアGP終了後、チームはイタリア・バレルンガサーキットで3日間のテストを行った。そして今週は第3戦オーストラリアGPを戦うべく、メルボルンへと飛ぶ。去年までは3月上旬の開幕戦だったのが、今年は4月初め。例年より1ヶ月遅い開催は、レース展開にどんな影響を与えるのだろう。

−次のオーストラリアは、去年よりずいぶん寒そうですね。
 冬に向かう気候ですし、海の向こうは南極ですからね。おそらく次の第4戦サンマリノGPより、寒いでしょう。そうなるとウチは、タイヤ温度が上がりにくい分、苦しいかもしれません。路面温度が低いと、タイヤの適正作動温度域から外れてしまって、グレーニング(ささくれ摩耗)が出て困るとか、そういうことが予想されます。

−第2戦マレーシアGPでは、ルノーの強さばかりが目立ちました。
  トップチームのクルマの真の評価は、やはりナンバー1ドライバー同士の速さを比べてみないとわからないです。アロンソとライコネンとミハエル・シューマッハと、ウチの場合はナンバー1というのは無いけれど、このチームとマシンの経験が長いバトンが、トラブルとか戦略上のミスもなく、同じところを走って初めてわかるものです。これまでの2戦では、まだそういうことになっていません。ライコネンは早々に消えてしまったし、シューマッハは後ろからのスタートでしたから。
 あくまで冬のテストを見た限りですが、あの時点ではアロンソ+ルノーと、ライコネン+マクラーレンの方が、バトン+Hondaより少し速かったです。それがオーストラリアでは、どうなっているでしょうか。

−マクラーレンのエンジン回転は、マレーシアでは上がっていたようですね。
 すでに第1戦から上がっていますね。あれで何周も走れています。トラブルは解決したのではないでしょうか。結局のところ、開幕2戦でトラブルの出なかったV8エンジンは、メルセデスだけで、あとはウチも含めて、最低1台は交換しています。ウチもまだまだ、エンジンでも苦労しています。パワーでも、トップではありませんし。
コスワースは、今回2台とも壊れたとはいえ、Hondaより回っています。コスワースの開発アプローチは、なかなか興味深いです。外から見る限りでは、最高出力(馬力)はトップではないようですが、とにかくひたすらどんどん回せますね。そうすると短いギアレシオが選べるので、結果的に駆動力が増します。そういう特性のエンジンに見えます。ウチはまだ、毎分19400回転とかのレベルで回し続けることはできません。コスワースは去年、V10エンジンの開発を早めに切り上げてV8に集中したことが、功を奏しているのではないでしょうか。

−今年のHondaは2004年のようなトップ争いが期待できそうなんですが、2004年の対フェラーリと、今回の対ルノーとでは、どちらが大変でしょう?フェラーリとルノーとでは、どんな違いがありそうですか?
 2004年のフェラーリは、クルマははるかにウチより優れていました。でも履いているタイヤが違っていたので、タイヤの特長を生かして勝負をするという手が使えました。今年はタイム差はすごく小さいのですが、同じミシュランタイヤなので、特徴を生かしての勝負は出来ません。
 加えて、ルノーはタイヤの温度が高めで温まりがいいので、路面温度が極めて高い状況にならないと、なかなか彼らに勝てるチャンスは出て来ません。厳しいですね。

 −クルマそのものを、速くしていくしかない。
 そのとおりです。結局は、そこなんです。タイヤがああだこうだ言っても、クルマそのものを良くすればいいわけです。それ以外に解決方法はありません。車体もエンジンも、まだトップではありませんからね。もし今、800馬力のエンジンを持って来れたら、世界が変わると思います。今よりウィングを立てても、最高速も伸びますから。

−力技ですね。
 Hondaですからね(笑)。エイヤっと、パワーで勝負したいですね。

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