HondaモータースポーツF1中本修平レポート
vol.127「車体・エンジン篇・その2」



「高回転・高出力」「ピークパワーこそすべて」というのが、一般的なHondaレーシングエンジンのイメージだった。しかしV8・2.4リッターに変わった今年から特に、そのアプローチを意識的に変えたと、中本STDは語る。ちなみに来季は今年のエンジンをベースに、ほぼ開発が凍結される。それがマシンやレース展開に、どんな影響を与えるのだろうか。

今年のいろんなエンジンを比べてみると、中回転域のトルクの差はすごいですよ。その中でもHondaエンジンは、トルクの山谷がけっこうありました。それでコーナリング中にオーバーステアが出て、挙動を乱したりしていました。でも今は、かなりフラットなトルク特性のエンジンになっています。そうすると少しぐらい回転が低くても、高回転型のライバルと戦えます。

―Hondaエンジンというと長い間、高回転高出力というイメージが強かったですが。
 そのアプローチを、変えていますから。

―それは、いつからですか。
 特に今年から、そういう方向に振りましたね。V8になると、明らかに低中回転域のトルクが痩せてしまいます。V10時代にできていたようなトラクション・コントロールではカバーできないくらいにね。それでも高回転高出力にこだわったら、クルマは速くならないだろうという結論に達したんです。だったら頭(ピークパワー)をある程度犠牲にしても、こっちを重視しようと考えたわけです。V8だからビッグボア、ショートストロークにして、ガンガン回してパワーを出すという議論もありましたが、まずはちゃんと走れるエンジンを作ろうということになりました。たとえ最高回転数が、ライバルが2万回転に達して、われわれがそれに届かなかったとしても、それでよしとしようと。

―Hondaは今季、レース中に2万回転を目指すと言っていましたが。
 これにはかなりこだわりを持って開発しましたが、残念ながら届きませんでした。

―来年からは最高回転数が、毎分1万9000に制限されます。結果的にこれは、高回転を追求しなかったHondaには追い風の措置だった?
 そうですね。でも僕らは最後まで、回転制限には反対したんですよ。「最高回転数ではなく、ピストンスピードを制限すべきだ」「ボア径がまちまちで、なおかつ開発が凍結される中で、回転数を制限するのはフェアじゃない」と言っていたんです。1万9000回転というのがわかっていたら、もっと小さいボア、ロングストロークにしたかったですしね。その辺のルールの作り方が、本当に不明瞭だと思います。だから結果的に僕らに有利になるとしても、回転数制限には反対し続けました。

―そうすると来年は、今年以上にチーム間のエンジン性能差は広がるのでしょうか。
 そうならないように、これから開幕戦までにいろいろと調整します。ビッグボアのエンジンは、中速域での絶対的なトルクは低くなる傾向だし、回転制限されたら、パワーも出し難いし辛いと思いますよ。

―車体に関してはやはり、空力性能の向上が一番の課題ですか?
 そうです。それから車体については、レギュレーション的にもいろいろ不透明な問題が出ましたよね。そのあたり、FIA(国際自動車連盟)の技術委員もシーズンが終わった今だったら、こういうのは来年どうするんですかという提案もできると思います。技術的に戦う場を残し、なおかつ公平であることは、絶対に崩さないでいこうと思っています。その辺をぜひこの冬、いい形にしたいですね。

(今年の中本レポートは、これで終了です。1年間のご愛読、ご声援、ありがとうございました。なお、次回は2007年1月中旬頃を予定しています。)

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