新しい環境への適応に苦労していたバリチェロも、シーズンが進むにつれ、少しずつ本来の力を発揮するようになっていった。レース中のラップタイムでも、大部分はバトンと互角。しかし多くのレースで、スタート直後やタイヤ交換直後にペースが落ちる問題に悩まされた。
―せっかく上位グリッドを得ても、すぐに後退するパターンが多かったですね。
(ペースロスは)Hondaに来てからというより、以前からそうだったようです。フェラーリ時代を見返してみても、すでに最初の5周でシューマッハとの勝負はついていました。でもそこから先のペースはほとんど変わりませんから、2人の差は、最初の5周とピットイン前後1周ずつのタイム差だけです。バトンとの間も、同じだといえます。
―それは、どう説明したらいいんでしょう?
わからないですね。本人は、そうじゃないって言うんですけどね。
―今季はグリッド以上の順位で完走しているレースが、非常に少ないですね。
やっぱり、そのペースダウンが影響しているんだと思いますよ。バリチェロはいつも真剣に、自分の意見を主張してきます。それはいいんですが、その通りのクルマにして走らせると、タイムがどすんと落ちて、本人は「うーん」と悩んでしまうんです。そういうことをシーズン中繰り返しやって来て、本人も軌道修正してきました。一方でエンジンもどんどんよくなって、走りやすくなってきたので、ある程度は走れるようになっていきましたね。
―トラクション・コントロールについても、ずいぶん不満を言っていました。
そうですね。それに関しては、バリチェロの言う通りだったと思いますよ。それでいろいろやっていますけど、まだ彼を満足させることはできないですね。
―その改良は、バトンにとっても助かるものですか?
いいえ、そうでもありません。バトンは基本的に、そんなにトラクション・コントロールに頼らないドライバーなんですね。うちのトラクション・コントロールの問題は、効かせ始めが微妙に遅くて、もう要らないという段階になっても、まだ少し残っているところです。今でも完全に解決できていないんですが、それでもずいぶんよくなったことで、バトンも楽になったとは言ってくれていますけどね。
―それによって、バトン側もタイムが改善したんですか?
いや、実はそんなに変わりません。運転が楽になったというだけです。結局バトンにとって、トラクション・コントロールというのはそういうものなんですよ。それがないと走れないなんてことはありませんから。「トラクションをコントロールするのは、本来ドライバーなんだ」「今のシステムは完全じゃないけど、毎周そうなるとわかっているんだったら、それに合わせた走りをすればいい」それがバトンの言い分なんですね。ただそれは、正しくないんです。タイヤを長く持たせる意味でも、トラクション・コントロールがちゃんと機能していた方がいいのです。
―一発のアタックだったら、トラクション・コントロールをオフにしてもタイムはそれほど変わらない?
それは違いますね。ロングランの方が、あってもなくても、タイムはさほど変わりません。バトンはとにかく器用に乗りこなしてしまいますから、クルマはよくはなりません。それにひきかえバリチェロは、確固たるものを持っていますから、それにクルマを合わせてやれば、だんだん速くなっていきます。そうやって今、ドライバーとクルマが歩み寄っているところなんですね。
(次回は「ドライバー篇その3」です)
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