HondaモータースポーツF1中本修平レポート
vol.110 第3期初勝利の意味(その3)「失敗はノウハウだ。だから恐れず、チャレンジしろ。」



シニア・テクニカル・ディレクターに任命されて以来、現場監督は、特に若手スタッフとの話し合いに多くの時間を割いてきた。彼らに伝えるのは、ふたつだけ。「失敗を恐れるな」。そして「今のこのチャンスを活かせ」ということだった。

―福井威夫社長は、「この2、3週間、チーム内の雰囲気はずいぶん良くなっていると聞いている」と言っていました。具体的にどのような変化で、雰囲気が変わったのでしょう?
 前回のレポートで、「言葉ではなかなか通じない」と言いましたが、いろいろ伝えてはいるんですよ。その結果、チャレンジしようという雰囲気は、チーム内にすごく出て来ています。
 一口にF1チームと言っても、ひとりひとりは個人商店みたいなものです。自分の技術を商品として、チームに買ってもらっているんです。契約しているわけです。われわれのような、サラリーマンF1じゃないんですね。ですから、何らかのミスをしたり、提案したことがうまくいかないと、その人そのものの評価に関わってきます。それは自ずと、チャレンジしにくい環境になってきます。これはどこのチームでも、同じようにあることだとは思いますが。
 一方、Hondaという会社は、難しいことにチャレンジして成功すれば、もちろん評価します。だけど万一失敗しても、やっぱり評価はするんですよ。失敗はノウハウですからね。次の方向に進むことができます。だから失敗を恐れずチャレンジしろと、チーム内でさんざん伝えているんです。今まで一度も話したことのない若手や中堅スタッフに、「失敗を恐れるな」とね。
 それから、何よりも言ってるのは、今の状況がみんなにとってすごいチャンスなんだということです。というのは、世の中の人はみんな、僕がシニア・テクニカル・ディレクターという肩書きになって、チームが強くなるとは、全然思っていないんですね。だからもし失敗しても、「ほら、やっぱり中本が悪い」ってことになります。だから、こんなチャンスはないでしょう。今なら、何でもチャレンジできるんです。来年になって、組織的にもっと落ち着いてからでは、それもできにくくなります。このチャンスを活かせって言っているんです。それを言い続けることで、「よ〜しやってやろう」という雰囲気になっています。面白いですよ、イギリス人は。なかなか、かわいいところがありますね(笑)。
 僕は一般的に言われているような、いわゆるテクニカル・ディレクターの仕事をするわけではありません。栃木研究所とブラックリーにあるファクトリーの、両方の資源を見渡して、どちらでどんな開発をするのがもっとも効果的か、それを判断するのが僕の仕事です。技術的なことは、担当の人に権限委譲しないと、クルマはできあがりません。権限委譲イコール、責任を持たせるということになります。「キミに任せるからやってごらんよ」と言えば、がんばりますよね。今までは、ああしろこうしろと言われていたキャリア4、5年の若手に、思う通りやれと言えば、元気が出ますよね。そうやって、チームをどんどん活性化していきたい。そうすれば、結果もついてくると思っています。

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