HondaモータースポーツF1ルーベンス・バリチェロ『自らを語る』
 

 2006年のシーズンも中盤にさしかかってきた。第7戦モナコ・グランプリが終了して、戦いはいよいよ佳境に入ってくる。しかし、ホンダ・レーシングF1・チームは苦戦を続けている。理由はいろいろ囁かれているが、誰も本当のことは分からない。チームのスタッフは全力で奮闘中だ。毎レース毎レース、出来ることはすべてやるといった全面臨戦態勢だ。しかし、なかなか成績がついて来ない。ついて来ないというより、レースの内容に満足できない。
 終わったばかりのモナコ・グランプリでも、ルーベンス・バリチェロは今季最高の4位に入賞した。得点は5点。モナコで4位!これは普通なら手放しで喜べる成績かもしれない。だが、実状は違う。レースのペースはまったく不甲斐ないもので、4位は前を走るクルマがリタイアした結果に他ならない。それも、バリチェロは3位入賞の可能性があったのに、ミスをして4位に後退した。何時間も、何日も休みなく働いた結果、小さなミスで好成績を失う。痛恨のミス、とでも言おうか。
 このバリチェロのコラムでは、可能な限り彼の生の姿をファンのみんなに知ってもらいたい、という考えがある。それには、現在のバリチェロがどうやって作られてきたか、という点にも話を持っていきたい。当のバリチェロは、あまり過去の話はしたくないみたいだけれど。
「いま僕はホンダ・レーシングF1・チームの一員として働いている。だから、Hondaのためになることなら何でも答えるが、それ以前に属したチームやドライバーの話はしたくないんだ」とバリチェロは言う。しかし、Hondaのファン、バリチェロのファンは、ルーベンス・バリチェロというドライバーに興味がある。いかにしてグランプリ・ドライバーのバリチェロが誕生したか、誰の影響を受けたか、なぜHondaを選んだのか・・・そうしたバックグラウンドを知って初めて、今のバリチェロを理解することができる、と思うのだが・・・。
 たぶん、これまでの自分を素直に話し始めたとき、バリチェロは速くなる。そんな期待を持って、今回もバリチェロに昔の話を聞いてみよう。

 

―― さて、前回はF1グランプリに進出するまでの話でした。これからはF1の話です。
 まず、1993年にARISCOの支援でジョーダン・グランプリに加入し、いよいよグランプリ・ドライバーとしてのキャリアが始まります。ドニントンパークで行われたヨーロッパ・グランプリで3位に入り、日本グランプリで5位。期待の新人として注目を浴びました。翌94年は開幕戦のブラジルGPで4位、第2戦のパシフィックGPでは3位と好成績でスタートしましたが、サンマリノの練習中に大事故に遭います。そのレースでは同郷の偉大な先輩アイルトン・セナが事故死、あなたは大きなショックを受け、そこから立ち直るのに時間がかかりました。しかし、ベルギー・グランプリでは、初のポールポジションを獲得しましたね。

RB: 94年はいろんなことがあった。

―― 95年、96年とジョーダンで走りますが、96年カナダGPの2位が最高位でした。97年にジョーダンを離れて、スチュワート・フォードへ移籍します。雨のモナコでミハエル・シューマッハに次いで2位。しかし、戦闘力の不足しているクルマではあまり好成績は残せませんでした。99年、フェラーリへの電撃的な移籍をします。チームメイトはミハエル・シューマッハ。開幕戦で2位に入り、ドイツ・グランプリで念願の初優勝を飾ります。フェラーリはどんなチームでしたか。
RB: 素晴らしいチームだった。いま言えるのはそれだけだよ。フェラーリで僕は随分と成長したと思っている。

―― 一般的には2002年であなたがフェラーリを出るだろうと言われていました。フェラーリでは常にシューマッハのNo.2としてのポジションに甘んじていましたから、不満がたまっていることを知っていました。でも、05年までフェラーリに留まりましたね。理由は何ですか?
RB: 僕はフェラーリにいることに不満はなかったよ。だから、05年までそこで働いたんだ。

―― あなたの優勝はすべてフェラーリで挙げていますね。フェラーリは素晴らしいチーム、と言う意味が分かります。03年にはイギリスと日本、04年にはイタリア、中国で勝っています。では、なぜ06年からHondaで走ろうと思ったのですか。
RB: そろそろ新しい挑戦がしたかったというのが一番の動機だね。それにHondaには僕の古くからの友人のジル(・ド・フェラン)がいた。彼がいたのも、移った理由のひとつだ。もちろんHondaに対しては特別な感情もあった。アイルトン(・セナ)からHondaのことはよく聞いていたしね。

―― さて、Hondaに移ってきてすでにシーズンの3分の1が過ぎました。前回のコラムでシーズン序盤のことは触れたのですが、ヨーロッパ・グランプリとスペイン・グランプリに関して少しお話が聞きたいですね。
RB: ニュルブルクリンクはあまり良くなかった。スタートが悪く、前が詰まっていて上位に伸して行くのは難しかった。どんなに頑張っても5位以上は無理だったろうね。7位が妥当だったかもしれない。予選も良くなかったし。スペインは良かったよ。でも、燃料のピックアップに問題が出て、ピットストップをして燃料を多く積んだので後半はペースが上がらなかった。

―― いまのHondaには何が足りませんか。ドライバーの視点からは。
RB: エンジン・コントロールをもっと改良してもらいたい。それに付随してトラクション・コントロールも良くして欲しいし、ブレーキももう少し利くようにして欲しいね。今年のレースは空力とブレーキが重要なポイントになると思う。そこをもう少し改良してもらいたいね。

―― 左足ブレーキが主流の今のF1で、あなたは右足ブレーキが主体だとのことですが。
RB: 僕は右足でも左足でもブレーキは踏める。実際レースでは必要に応じて使い分けている。

―― じゃあ、問題はないと。
RB: それ自体は、問題ではないよ、多分ね。いろんなことを言う人はどこにでもいる。僕が左足でブレーキを踏めないと言った人もいたけど、そのうちの何人が僕がブレーキを踏んでいるところを見たと思う? 誰一人いないよ。

―― そうですね。よくわかりました。さて、次回はシーズンの中で最も重要なモナコ・グランプリに関して詳しく聞きたいと思います。
RB: じゃあ、モナコでは良い成績をのこさなきゃいけないね。

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