HondaモータースポーツF1ジェンソン・バトン ダイアリー
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 12月
 ホンダ・レーシング・F1・チームの2007年に向けた準備が着々と進行している。11月28日にはテスト禁止期間が明けて、チームはスペインで冬季キャンプをスタートした。僕自身はこのテストに参加できなかった。カートでのトレーニング中に肋骨2カ所にヒビが入ってしまったんだ。それでも僕はミーティングすべてに参加したいので、チームと一緒にバルセロナに行くことにした。
 過去数年の例にならいHondaはクリスマス前の3回のテストで”コンセプト・カー”を使用することにしている。これは外見的には2006年のレースカー、RA106と同じだが、メカニカル・コンポーネンツは来季モデルのRA107のものを多く搭載している。
 来季からはブリヂストンがF1タイヤをすべて供給することが決まっていて、僕たちも新しいタイヤパートナーとの共同作業を色々と行っている。2007年用は2006年用に比べて硬く耐久性が増しているので、性能を最大限引き出すためにこれまでとは違ったセットアップが必要になる。この原稿を書いている12月上旬までに多くの成果があったが、ニュースペックによるタイムの低下は全てのチームで1周あたり約3秒に達している。
 11月のはじめ、私は毎年恒例のトレーニング・キャンプに向かった。キャンプ地には10日間滞在し、毎日3回トレーニングセッションをこなした。午前中はサイクリングと水泳、ランチの後はジム・セッションで、その後またサイクリングだ。9月と10月は、アジアでの旅が長くトレーニングを怠りがちだったので、今回のようにまとまった時間を体力づくりに割くことができて、気分的にもすっきりした。10日間、体力がぐんぐん増してくるのを感じることができて、キャンプの終わる頃には文句なしの体調に戻すことができた。
 イギリスに戻ると、私はブラックリーのホンダ・レーシング・F1・チームのファクトリーを訪問した。ブラジルGPの翌週に訪れたきりご無沙汰だったので、久しぶりにみんなの顔を見られてうれしかった。午後をまるまる使って各部門に顔を出して、ニューカーに関する情報を収集した。RA107のデザイン各所でエンジニア連中がブレークスルーを成し遂げたと聞いた。これがレーストラックでのパフォーマンスにどう効いてくるのかを確かめたくて、1月のニューマシンの発表が待ちきれない思いだ。
 この日の夜(11月20日)はロンドンへ向かい、アルバート・ホールでホンダ・ニュー・サークル・コンベンション2006(Honda従業員や関係会社で取り組んでいる小集団活動の世界大会)に出席した。Honda福井社長が千人を超す世界中の従業員やゲストを出迎える中、Honda Racingの関係者も大勢出席していた。昔F1と二輪の両方でワールドチャンピオンになったジョン・サーティースや、二輪ロードレースの最高峰であるロードレース世界選手権MotoGPクラスの2006年度チャンピオン、ニッキー・ヘイデンも来ていた。ニッキーとは以前グッドウッドのフェスティバル・オブ・スピードで会ったことがあるが、この再会の機会にチャンピオン獲得のお祝いを伝えることができた。
 次の目的地は、私の大好きな東京。旅の目的はツインリンクもてぎで開催されるHonda Racing THANKS DAYだ。Hondaが参戦する二輪・四輪すべてのレースカテゴリからマシンが送り込まれ、所属するドライバーやライダーも多数が参加していた。F1からは、僕とアンソニー・デビッドソンと佐藤琢磨が参加した。デモ走行やサイン会を目当てに集まったファンの数は2万7500人。僕はケガをしていたので、RA106はドライブできず、S2000に同乗してコースを一周しながらファンの声援に手を振って応えた。今回初めて参加したイベントだが、すばらしい雰囲気に感動したので、次回もぜひ参加したいと思っている。
 日本のイベントに参加した関係で、ロンドンで開かれた「メイク・ア・ウィッシュ・ファンデーション」のパーティには出席できなかった。不治の病の子供たちの望みをかなえてあげようというボランティア運動には、私も数年前から協賛していて、可能な限りの助力をしたいとは思っている。というわけでパーティに出席できない代わりに、来年のイタリアGPで僕と会えて、VIP待遇でF1パドックを案内するという権利をオークションに提供したが、7万8千ポンドの値がついたときには本当に驚いた。
 11月27日は、冬のテスト初日に合流するためバルセロナへ飛んだ。私自身でドライブするのは次の週のヘレス・テストからの予定だが、冬のテストへの備えを万全にする意味でも、ルーベンスやクリスチャン・クリエンとジェームズ・ロシターのテストドライバー2人の感想がどうしても聞きたかったんだ。
 クリスマス前のこの時期のテストから得られる情報は、新車開発の流れの中で非常に大きな意味があるのだが、今のところ全てが計画通りに進んでいるようだ。
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