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§ ジェフ・ウィリス テクニカル・ディレクター インタビュー
木内プロジェクトリーダーも指摘しているように、空力やタイヤなど大幅に変わったレギュレーションをどう克服するかが、今シーズンの大きなテーマであり、短いオフシーズンの間にF1チームの勢力図を大きく塗り替えた最大の要因だといえるだろう。昨年、コンストラクターズランキング2位の座を得たB・A・R
Hondaや、チャンピオンチームのフェラーリが予想外の苦戦を強いられ、代わってルノー、マクラーレンの2チームが台頭するようになったのも、こうした新規定への対応の差があったからだと考えられる。
そうした中、B・A・R Honda 007の開発はどんな形で進んできたのだろうか? テクニカル・ディレクターのジェフ・ウィリスに聞いてみた。
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「確かに我々は、シーズン当初、思ったようなパフォーマンスを発揮できていませんでした。その主な要因は、エアロダイナミクスに関連する性能で、ようやく問題点が明らかになってきたのがヨーロッパラウンドに入る少し前ですから、サンマリノGPでは大きな進歩を見せ、本来のパフォーマンスに近いものを発揮できたと思っています。しかし、そこで例のペナルティ問題が起きてしまい、自信を持って臨めるはずのバルセロナとモナコを欠場したために、開発のリズムが乱れてしまいました。
当初、バルセロナで投入する予定だった新しい空力パッケージに、更なるパーツを加えて臨んだニュルブルクリングでは、全く期待外れの結果に終わり、その後のテストで我々がいくつかの間違いを犯していることに気が付きました。後から加えたいくつかのエアロパーツが、実際には期待していたような効果を発揮していなかったのです。
そこで一旦、空力の仕様をイモラバージョンまで戻してから、再び開発をやり直して作られたのが、カナダ、アメリカの北米ラウンドで走らせたマシンで、今回はきちんと効果を確認することができました。こうして、若干の寄り道をせざるを得なかったことが、厳しいシーズン前半戦をもたらした原因だと思います」
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マシンそのものの性能ついて考える時、現時点でのトップとの差はおよそコンマ7秒ほどだとウィリスは考えている。
「もちろん、タイヤを効率良く使うためには、基本的な空力の効率の良さが重要で、現代のF1ではエアロダイナミクスがマシンの性能の大部分を支配しているのは、今更言うまでもありません。ただ、純粋にダウンフォースレベルの差で生まれるタイム差は、おそらくコンマ2秒ほどで、それを効率良く活かせるようなセットアップや正しいタイヤの選択があって、更にコンマ2秒、ドライバーがマシンの性能に自信を持って走れることで、更にコンマ2秒かそれ以上のタイムを削り落とすことが可能になります。
どれほど空力が重要であっても、マシンの総合的なパフォーマンスはひとつひとつの小さな進歩の組み合わせで決まるものなのです。この数戦で毎回、トップとの差はコンマ1〜2秒ずつ詰まっていますし、昨年同様、今年も最後まで開発の手を緩めない方針ですから、これから着実にトップとの差を詰めていきたいと思っています。
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もちろん、V8エンジンを搭載する来年のマシンと今年のB・A・R Honda 007の開発を平行して進めることは、我々にとっても大きなチャレンジですが、昨年と比べても、我々のマシン開発能力やチーム全体のキャパシティは遥かに向上していますし、Hondaとのコラボレーションもより親密に効率的になり、今では完全に“ひとつのチーム”として機能し始めています。現在も、数多くの共同プロジェクトがBARと栃木研究所の間で進められていて、こうした要素がチーム全体のキャパシティを高めているのです。
ブラックレーと栃木の研究所は何万マイルも離れていますが、お互いの間をエンジニアが頻繁に行き来し常に情報交換をしていますし、時差があることで逆に24時間体勢のオペレーションが可能になっているとも言えるわけですからね。こうしたジョイントベンチャーのアドバンテージを有効に活かすことで、今季のマシンの開発と2006年のプロジェクトを平行して全力で進めることができるはずです」 |
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