HondaモータースポーツF1ジェンソン・バトン ダイアリー
§これまでのレース人生でいちばん惨めな瞬間
 
 2戦の出場停止処分はつらかった。だからヨーロッパGPが待ち遠しくて仕方がなかったのに、結果はがっかりなものだった。原因はいろいろとある。ペナルティーのせいで、僕たちは予選で最初に走らなければならなかったこと、そしてエンジンの問題など。特にエンジンは、5週間も使わないままのものを、今回も使わなければならなかったんだからね。
 
 それだけじゃない。レース中には何度も渋滞にはまってしまったし、ハンドリングも良くなかった。コーナーの入り口ではアンダーステアで、コーナーの途中ではオーバーステア。次のカナダGPに向けて、課題が山積みだ。
 
 でも、いくらレースの結果が良くなかったと言っても、グランプリから締め出されているときのイライラとは比べものにならないね。スペインGPの時は、僕は心の底から出場できると思って、いつも通り、精神的な準備も万端だったんだから・・・。あれは、これまでのレース人生でいちばん惨めな瞬間だった。しかもレースには出られないって言うのに、PRイベントはびっしりと予定が詰まっていたからね。
 
 スペインGPの直後、イギリスのB・A・R Hondaのファクトリーにチームスタッフ全員が集まって、今後について話し合った。500人以上のスタッフがひとつの部屋に集まったんだ。要点は2つ。今回のことについて、くよくよする必要はないということ、そして、今僕たちがやらなければならないのは、復帰レースとなるヨーロッパGPに集中することだけだ、ということ。そしてその目標に向かって、僕たちはテストのスケジュールを組んだんだ。
 
 ファクトリーでの会議の後、僕はモナコの自宅に戻って、ニースの北にある丘で2日間のトレーニングを行った。トレーナーのマイルスと一緒にね。とてもいい感じでトレーニングできたよ。ちょっと変に聞こえるかもしれないけれど、それまでの数日間のストレスが汗になって流れ出して、気持ちもすっきりした感じになれたんだ。
 
§絶対にポイントを獲らなければ!
 
 モナコGP前のモナコの街はいつも、何だか熱に浮かされたような感じで、そこにいるだけで奇妙な気分にさせられる。作業の人たちがコースの周りに最後のバリアを建てていく。港にはたくさんのヨットが停泊している。チームも、他のGPより早く現地入りしてピットガレージを準備する・・・。でも今回特に不可思議な感じを抱かせたのは、この街にB・A・R Hondaのトラックがいないという事実だった。
 
 僕はグランプリから気持ちをそらすため、できるだけ多くの予定を組んだんだ。最初のフリー走行が始まった木曜日には、カンヌでネルソン・マンデラの、子供たちのためのチャリティオークションに出席した。金曜日には、撮影とPRイベントをこなし、土曜日はマイルスと一緒にトレーニング。日曜のレースの時には、イギリスのテレビ局、ITVの放送席で、マーティン・ブランドルと一緒にレースの解説をした。
 
 みんなも知っているように、マーティンは元F1ドライバー。今回、その彼とも仲良くなれた。それと、いつもと反対の立場に身を置くっていうのはいいチャンスだった。違った面からレースを見るのはなかなか楽しいものだね。テレビ局も、毎回違ったゲストコメンテーターを呼べばいいのにって思った。そうすれば中継に新鮮味が加わるだろう。
 
 モナコGPの後の2日間は、モナコでPRの仕事が入っていた。ひとつは、編集者たちと一緒にサイクリングするという企画。これは面白かったよ! 編集者の中には、健康のためにももっと鍛えた方が良いっていう感じの人が何人かいたけどね。もうひとつは、MTVの撮影。実は今、MTVでは僕の日記風のフィルムを作っているんだ。いろいろな場所で撮影をしたよ。ジムとかサーキットとかね。これも楽しかった。
 
 北米大陸の2連戦、そして7月には4つのグランプリがある。チームにとっても僕にとっても、とても重要な時期に突入するわけだ。絶対にポイントを獲らなければ!
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