グランプリレースの現場を支えるメカニックやエンジニアが所属するレースチームに対し、テスト現場を切り盛りするのがテストチーム。レースチームとテストチームは、お互いに連携を取りながら開発を進め、新しい技術も、テストで効果が確認できない限りは、レースで使うことはない。また、マシン開発の他に、レースで発生した問題を解決することもテストチームの重要な役割である。

「テストチームがあってこそレースができる」と、私は思っています。ですから今回は、彼らにスポットを当てた話をしましょうか。
 
 Hondaのテストチームのリーダーは、F1の知識も経験も非常に豊富な人です。自分より、はるかに多くのことをよく知っていると思います。もともとはエンジンのエンジニア出身ながら、車体についても非常に詳しい知識を持っているんです。
 
 もともとF1チームのティレルから経験を積み、ジョーダンなどともずっと一緒に仕事をやってきながら、経験的に知識を身につけていった人です。チームのエンジニアと仕事をしながら、「なんでここはこうするんだ」ときいていくうちに習得した、実践的な知識ばかりです。この世界の現場では、そういう経験則こそが、すごく役に立つんです。
 
 エンジンというのは、クルマ全体の中では、一つの部品にすぎません。エンジンだけでコンマ1秒稼ぐことは、大変なことなんです。なかなかできることではありません。とは言え、レース結果を大きく左右する重要な部品です。だからクルマ全体のパッケージの中で、エンジンをどうしたらいいかということは、とても重要なんですね。その時にクルマ全体を知っているエンジニアがいると、すごく助かります。
 
―例えば、テスト中に期待したようなパフォーマンスが出ない時、原因を探るための選択肢が多いということですか?
 
 そうですね。最高速ひとつ取っても、午前と午後で違うことがあります。それには色々な要素があるんです。一番大きいのは風の影響だし、エンジン馬力が落ちれば速度も落ちるし、空力セッティングや、車高も大きく影響します。特にコーナリング中や加減速の際に、車体の高さが微妙に変わる、いわゆる動的な車高変化ですね。それが最高速にずいぶんと影響を与えます。コーナーを脱出する時にかかるタイヤのトラクションも影響します。
 
 そういうことを含め、考えられる可能性をみんな把握していますから、これはこうじゃないかと、すぐにイメージできます。それで、例えばエンジン担当のエンジニアに対し「これを見ろ」と指示ができるんです。
 
 一方、チームに対しては「あれはどうなっているんだ」ときける。一つの事象変化があった場合、それを的確に判断して、すばやく行動できるんですね。そのスピードが、限られたテスト時間しかない我々にとって、とても重要なことなんです。(終わり)
 
※今週末9月12日(日)は、第15戦イタリアGPです。皆様のご声援をよろしくお願いいたします。
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