前回Vol.4で、私がどんな仕事をしている人間なのか、簡単に説明しました。今回は、グランプリの週末に何をしているのか、お話ししましょう。
 
私が今住んでいるイギリスから、その週末レースが開かれる国には、たいてい水曜日に移動します。ヨーロッパ内のレースだったら、昼頃出発して夕方には現地入りします。1週間でこの日が一番、ノンビリできる時かもしれませんね。到着してから、スタッフと食事するくらいですから。
 
翌日の木曜日は、朝のうちにサーキットに行って、まずマシンの確認です。それから他チームのガレージを見回って、「ああ、ここは今回こんな変更を施してきた」とかをチェックする。これは他社さんも、同じことをしていますね。それが終わってから、サーキットを1周、自分の足で歩く。これは今年から始めた習慣なんですが、実は歩いて見ても、路面の凹凸なんてわかりゃしないんです。時速300kmで走ったらすごいバンプでも、歩くだけではスベスベの路面です。でも頭の中でラップチャートを描きながら歩いていると、いろいろ発見もあるんです。よくこんなコーナーを、エンジン全開で行くなあと感じ入ったり。サーキットはだいたい1周5km前後のところが多いんですが、登ったり下ったり、行きつ戻りつして、1時間半くらいのウォーキングですね。けっこう汗びっしょりになってしまいます。
 
ここから日曜日のレース当日まで、ミーティング漬けのスケジュールが待っています。木曜日は「レース前ミーティング」と言って、1時間半ほどの長めの話し合いを、B・A・RとHonda双方のエンジニアが集まって行ないます。エンジン側は今回こんな仕様変更がある、最高回転数はこれくらい、オイル消費はこれくらいとか、すでに事前に話してあることの念押しです。車体側も同様に、変更点とか注意点を提示する。あと、そのレースに投入するタイヤや、週末の天候などの情報交換。そしてそれらを踏まえて、だいたいこんな作戦が考えられるという話までしておきます。
 
そして金曜日から、実際にマシンが走り始める。それぞれのセッションの前後にも、ひっきりなしにミーティングです。状況は毎日変わりますから、作戦会議は連日行ないます。エンジニアだけの会議、ドライバーを交えた会議、チーム代表も加わる会議・・・。
 
連日会議だらけですが、これだけは絶対に守る、ということがあります。それは、「重要な決定は、できるだけ小人数の集まりで行なう」ということです。大勢が加わると、決定が遅れてしまう。しかしレースの世界は、分刻み、秒刻みで勝負が決まる。長々と議論しているヒマはないからです。ジェフ(ウィリス、B・A・Rのテクニカル・ディレクター)との立ち話で、エンジンの使い方、車体セッティングからレース戦略まで、重要なことを決めてしまうことも少なくないですよ。(「その3」へ続く)

※今週末6月13日(日)は、第8戦カナダGPです。皆様のご声援をよろしくお願いいたします。
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