「2004年シーズンを振り返る」(最終回)
 ここまで6回にわたって、開幕戦からの1年を振り返ってきた。初優勝こそ逃したものの、選手権トップ3以内、複数回の表彰台獲得、という当初の目標を見事にクリアしたB・A・R Honda。最終回では、今季の躍進の秘密に迫る。

 Honda側で言えば、今季は自己認識が正確にできたシーズンだったと言えると思います。どういうことかと言うと、自分達が実際にどれほどの実力があるのかを厳しく評価し直し、ちゃんと理解できるようになったということです。それは今年突然そうなったわけではなくて、数年前からですけれど、それに基づいて、例えば、重量何キロ、出力何馬力っていう具体的な数値目標を掲げて、一つずつクリアして行きました。
 
 その結果、2003年の車体開発は大きく変化しました。完成車として勝つために、その中のエンジンや制御系はどうあるべきか、そんなことを木内さん(木内健雄F1プロジェクトリーダー)を中心に考えるようになったわけです。全ての領域に、自分達の分かる範囲で目標を立て直しました。
 
 そして、これだけ数値が変わればこれだけ速くなる、と言うシミュレーションも、もう一度やり直しました。その後、去年やりきれなかった部分を今年のマシンに盛り込んだ。その結果が、こうして出てきたのだと。
 
 そういう長いスパンでいろいろやってきたことが、ようやく今年のクルマで形になりました。だから、今年のクルマはどうして速いんですかってきかれると、一番困ります。今まで何年も費やしてきたことの結果ですから。今年のクルマは少なくとも去年開発したものでしょう。つまり、今年いいのは、去年1年間ちゃんとやってきたからなんです。そして、去年何かをやるためには、さらにその前に種をまかないといけない。そういうことの積み重ねなんですね。
 
―クルマ自体は、具体的にどういう部分が優れていたんでしょうか。
 
 エンジンで言えば、小型軽量化。パワーの点でも、今季から1レース1エンジンの規則になったにもかかわらず、開幕時点で去年の最終戦レベルまで持っていけました。他には、ギアボックスも軽量化できて車体後部が大幅に軽量低重心化されました。その結果、「素の状態」でのハンドリングが非常に良くなったのに加えて、各サーキットの特性に合わせたセッティングも、大幅にやりやすくなりました。要するに、何か突拍子もないことをやったわけではなくて、全ての技術が少しずつ底上げされたということです。
 
 とは言え、例えばマシン前部に重量配分を寄せる試みは、F1の常識からは遙かにかけ離れたことでしたね。今はライバルチームもみんな、真似してしまいましたけれど。この改良の結果、今まで苦労していたリアタイヤへの負担がうんと減るようになりました。
 
 今年のうちのマシンは、ガソリンを多めに積んでもある程度のタイムは出せました。それなら、重くしてタイムを出して、予選で4、5番手を出せば、レースが始まって1回目のピットストップで3番手に上がれます。その後もタイヤがたれないから、ずっと一定にラップを刻んで3番手をキープできます。そうやって、次々と表彰台に上がってきたわけです。

 一方、選手権2位を争ったルノーは、軽い燃料で前のグリッドを獲得します。そして、得意のスタートでさらに順位を上げます。でも序盤の給油タイミングが早い分、後半長い周回をこなさないといけなくなって、タイヤがたれることが考えられます。だから序盤で前に出られても、そんなに怖くはなかったですね。
 
 うちのクルマは、重くてもそこそこ速い。でも逆に言うと、軽くても大したタイムは出せません(笑)。要は、現状で一番得意とするところを使って、その中で出来得る最高の成績を手に入れたわけです。(終わり)
< INDEX Vol.35>
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