琢磨君と仕事をするようになったのは、2001年に彼がテストドライバーになってからなんですが、色々なことに対する彼のアプローチ方法は、その頃からあまり変わっていませんね。人の話をよく聞いて、それを自分の中で積み上げてやっていく、そんなスタイルですよね。
 
 それと琢磨君は、性格的に“ファイター”で、常に戦う姿勢を持っていると思うんです。それはテストドライバー時代から、そうでしたね。別に誰かと戦うんじゃなくて、タイムを刻みたがりました。もちろんそれと同時に、クルマを良くすることが自分の仕事だということを、よく理解していました。でもその中でも、一生懸命タイムを出そうと、タイムと戦っていましたね。例えばタイヤの評価テストをする時でも、ロングランを走るうちに、何とかタイムを出したいとか、そういう気持ちでやっていましたよ。
 
―クルマの作り方は、琢磨君とジェンソンでは違うわけですか。
 
 違いますね。あくまで大雑把なイメージですが、琢磨君がクルマを作って、それをジェンソンが確認するような、そんな感じでしょうか。もちろんそれだけではなくて、ジェンソンもクルマを作るし、彼が良かったものを琢磨君が試すこともある。でもレース現場での、そのサーキットに合わせたセッティングは別にして、クルマを作っていく、クルマの性能を全体的に底上げする作業、そういうものは、琢磨君は非常に優れていますね。
 
 エンジニアに対する要求という点でも、琢磨君の方がずっと多いですね。どちらが良い悪いということではないんですが、琢磨君はとにかくクルマを良くしたいという気持ちが、こちらに伝わります。琢磨君のそういう貪欲さは、これから上に伸びて行く上での、すごく良い点だと思いますね。
 
―逆に足りない部分は?
 
 ジェンソンに比較すると、もう少しプレッシャーを上手くコントロールする必要があるでしょうか。力が入りすぎる場面が、これまで何度か見られましたよね。ただその点も大分進歩していますから、来年になったら随分違う展開になるでしょう。既に今の時点でも、1戦1戦経験を積んで、「上手くなったなぁ」って思うことが多くなりましたよ。
 
 僕はこれまで琢磨君に対して、結構厳しい言い方をしてきているでしょう。あれは、何て言うか、琢磨君からは「絶対あそこまでいけるはずなのに」ということを強く感じるからなんです。それだけの才能があるし、努力もしている。周りの人間も、そうしてあげようと一生懸命努力しているのに、全然違った結果が出てしまったりすると、どうしても厳しい言い方になるんです。これが才能のないドライバーで、いい加減にやっているのだったら、まぁいいんじゃないのって思えるけれど、琢磨君はそれだけのことをやっていますからね。我々としても、それだけの結果を残させたいし、残せるはずだと思っていますから。
 
 だから、チャンピオンを取るまでは厳しく言い続けますよ。 チャンピオンになった時に初めて「良かったね」って言えるのだと思います。(終わり)

※今週末8月29日(日)は、第14戦ベルギーGPです。皆様のご声援をよろしくお願いいたします。
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