B・A・R Honda 日本GP直前記者会見
 2004年日本GP直前の10月5日、東京都内のホテルで、B・A・R Hondaの主要メンバーによる記者会見が行なわれ、「チーム100戦目となる鈴鹿で、ぜひ初優勝を遂げたい」と、同GPに向けての抱負を語った。
 
 出席したのは、ジェンソン・バトン、佐藤琢磨の両ドライバーに加え、デビッド・リチャーズ代表、ジェフ・ウィリス・テクニカル・ディレクター、そしてHonda側から木内健雄F1プロジェクトリーダー、橋本健F1車体技術開発責任者の5名。会場のホテルには、降り続く大雨にもかかわらず、国内外数100人の報道関係者が詰め掛けた。自動車・レース専門誌だけでなく、一般の新聞雑誌のジャーナリストも数多く、B・A・R Hondaへの期待と関心の高さをうかがわせた。



●「今年ベストのレースにしたい」
 
 最初にリチャーズ代表が、今年初めからの戦いを振り返った。
 
「今季はF1史上最高の18戦という、長くタフなシーズンが続いている。しかし、われわれはここまで、予想以上に健闘できたと自負している。なにしろ去年の同じ時期に、チームは18点しか取れていなかった。それが今年は、すでに105ポイントを獲得して、コンストラクターズ選手権2位に付けているんだからね。とはいえ、まだ一度も勝てていないことも事実だ。B・A・R Hondaにとって今季二つ目の地元レースとなるスズカが、チーム創設以来100戦目になるのも何かの因縁だ。ここでぜひ悲願を達成したいと思っている」
 
 一方Hondaにとって今年は、1964年にF1GPへのチャレンジを始めて、ちょうど40年目の節目の年でもある。1990年代初めまでのHonda F1第2期にエンジニアとして参戦していた木内プロジェクトリーダーは、当時を振り返ってこう語る。
 
「この40年間、Hondaは一貫してチャレンジングスピリットを皆さんに見せてきた。これだけの期間と密度、それを続けてこれたのは、先達たちの想像を絶する努力があってこそだと思う。それにささやかながらも関わっていることを、私自身大きな誇りに思っている」
 
 そして鈴鹿に向けては、「やはり勝ちたい」と言う。
 
「今年初めの新車発表会の席上、『今年はやります』と決意表明をしました。『何度か表彰台に上がりたい。そして少なくとも、ひとつは勝ちたい』と目標を掲げた。そのうち表彰台に関しては、コンスタントに達成できたけれども、もうひとつの方がまだですからね。
 鈴鹿はHondaにとっても、そして琢磨君にとってもホームグランプリとなります。エンジンだけでなく車体も、鈴鹿用のパッケージを用意しました。今年ベストのレースだったと言われるような、そんな週末を送りたいですね」
 
●「フェラーリの絶対優位を切り崩すには」
 
 それでは今季大活躍の二人のドライバーは、この1年をどう見ているのだろうか。

「とにかくマシンの進化がすごかった」と、ジェンソンは語る。「車体もHondaエンジンも、そして新たにパートナーとして加わったミシュランタイヤも、素晴らしいパフォーマンスを発揮した。その結果、何から何まで違うクルマに仕上がった。もちろんだからと言って、去年のクルマがひどいシロモノだったと言うわけじゃないよ(笑)。ものすごく進歩の伸び代が大きかったということさ」
 
 こうして抜群の戦闘力のあるマシンを手に入れた結果として、「チームが一丸となって戦う雰囲気ができ上がり、それで好結果を生み、さらに結束が強くなって行った」と言う。そして、「僕もそうだけど、タクも本当に素晴らしい走りを見せているよね」とチームメイトの健闘を高く評価していた。
 
 その琢磨は、「去年1年間のテストドライバー期間中に、イチからマシンを作り上げて行った。その経験が今に生きている」と言う。
 
「僕自身、ちょうど1年前のこの時期に、2004年の参戦発表をしました。それまではテストドライバーとして去年型の005でマシン開発に携わり、自分の中にたくさんの引出しを増やすことができた。それが今年につながっていると思います。チームは今季、僕たちが自信を持って走れるクルマを作り上げてくれた。そのおかげで、僕もジェンソンも、毎レース思い切って攻められる。それが好結果となって出ていますね」
 
 その成果の集大成となるのが、今週末の日本GPである。
 
「確かにフェラーリは強いです。特に鈴鹿のようなタイプのサーキットは、彼らの得意としているコースですしね。おまけにルーベンス・バリチェロが2連勝しているように、速いのはミハエル・シューマッハだけじゃない。今の彼らには、本当に死角がありません。でもその壁は、ぜひ破りたいですね。正面から打ち破るのはむずかしいかもしれないけれど、でもホンの少しでもチャンスがあれば、絶対にそれを活かして、ベストの結果を出したい」
 
 今週末は雨の予報だが、という問いに、ジェンソンは「それはグッドニュース。予選もレースも、ぜひそうなったらいいね」と言う。
 
「新しいミシュランのウェットタイヤは、スパ・フランコルシャンでは思ったような結果が出なかった。でも次のモンツァでは、かなりのパフォーマンスを発揮できてる。タクも言ったように、フェラーリ絶対優位を切り崩すための突破口になる可能性は十分にあるよ」
 
●「今季の達成度は60%。来季を見てほしい」
 
 鈴鹿の2週間後に控えるブラジルGPで、2004年シーズンは幕を閉じる。そしてチームはもう何ヶ月も前から、すでに来季に向けてのマシン開発に取り組んでいる。まだちょっと早いが、琢磨が今シーズンの総括と来季に向けての抱負を語ってくれた。
 
「いろいろ不確定要素も多かったけれど、B・A・R Hondaはかなりの戦闘力を発揮することができました。それは何より今年のマシンが、次元の違うステップに到達していたおかげと言えます。でも僕らは決して、現状には満足できない人種なんですね。確かに去年に比べれば格段に進化しているけれど、でも僕らは依然として、真の意味でのトップチームとは言えない。まだまだやることはたくさんあるし、だから来年は、いっそう楽しみなシーズンになると期待しています」
 
 木内プロジェクトリーダーも同様に、「来季を見てほしい」と言う。
 
「今年の好調の原因は、何と言ってもマシンの基本骨格がきちんとできたことが大きい。一方で、常勝フェラーリとは依然かなり離れているわけです。もし現時点がわれわれの精一杯で、これ以上アイデアの出ない状態だとしたら、彼らに追いつくのはむずかしいでしょう。しかしそうじゃありません。アイデアはまだ山ほどあるし、その意味で今年の達成度は60%くらいでしょうか。ドライバーも伸び盛りだし、来シーズンはもっともっと飛躍しますよ」(終わり)
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