10月10日(金)、予選初日。今年のF1は、すべてのタイトルがここ鈴鹿で決まる。午前11時が近づくと、各チームのマシンのエンジンに火が入り、午前中のフリー走行への準備が整った。11時03分、ジェンソンがピットからコースへ出て行く。すべてのシステムの始動と走りの感触を確かめる目的で1周だけ走り、調整のためにピットへ戻る。数分後再びコースへと出て行き、レースをシミュレーションしながら硬めのタイヤを試す。タイヤがあたたまり燃料が軽くなるにつれて、マシンのバランスがどう改善されていくかを把握しようとしていた。
ところが、7周目の途中で沈んでいくように感じたマシンは、突然のエンジンパワーの消滅でピットまで戻ることもできなくなってしまった。ジェンソンはコース脇の草地にマシンをとめ、Honda製のスクーターに乗ってピットへ戻った。一方琢磨は、満足のいく20周を走り終え、ベスト・ラップはジェンソンが短いコースインの間に記録したタイムより2秒ほど速い。
ジェンソンは、まだ慣れることができていない改修された鈴鹿のコースを、フリー走行でテストできなかった軟らかめのタイヤで、1周しかアタックすることのできない予選に臨むことを強いられた。そして予選一日目の結果は16位。琢磨との差は0.5秒、ポジションで5つのビハインドとなった。ジェンソンはエンジニアとともにすべてのデータを夜通し分析し、明日の最終予選をどのような態勢で臨むべきか、方向性を探った。翌10月11日(土)。朝のフリー走行で積極的に周回を重ね良い感触を取り戻したジェンソンは、ウォームアップの間により良いセッティングを見つけることに成功し、アグレッシブな走りで二日目予選9位に食い込んだ。
10月12日(日)。日本GP決勝日の鈴鹿サーキット上空は、朝から雲が広がりいつ雨が降リ出してもおかしくない天候となった。決勝のスターティング・グリッドでB・A・R
Hondaの2台は、とりわけレースに臨む態勢が整っていたように見えた。他のほとんどのチームが3ストップ作戦を選ぶ中、B・A・R Hondaは2ストップ作戦でレースに臨んだ。戦略は的中し、ジェンソンと琢磨はライバルたちを次々と鮮やかにパスした上、ジェンソンは2回目のピット・ストップを迎える直前でトップに立ち、後続のチームメイトの琢磨と共にB・A・R
Hondaのワン・ツー体制でレースをリードした。レース後半のジェンソンは、安定した走りでルノーのJ・トゥルーリをおさえポジションを守り、今シーズン最高位タイの4位を勝ち取った。琢磨も堂々の6位でフィニッシュ。昨年に続いて母国ファンの前で入賞を果たし、B・A・R
Hondaはチャンピオンシップ5位を確保した。
その夜、鈴鹿サーキットでチームと一緒に喜びを分かち合うジェンソンだったが、プレッシャーから開放されるのも束の間、2004年シーズンはもうすぐそこまで来ている。もっと、常にもっと大きなことを目標に、ジェンソンは想いを巡らせるのであった。
(終り)
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