Insights

2019.05.29

松下信治の挑戦

松下信治の挑戦

HondaがF1へパワーユニットサプライヤーとして復帰して5年目。今季は2チームへの供給へと体制が拡大し、復帰後初の表彰台獲得も果たしました。 他方で、パワーユニットの開発のみでなく、ドライバー育成など将来を見据えた取り組みも強化しています。「Hondaヤングドライバーズプログラム(Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト、HFDP)」もその一つです。

松下信治の挑戦

松下信治は、2017年にFIA-F2選手権でランキング6位を獲得し、翌年は日本でスーパーフォーミュラに参戦。今季はF2の舞台に復帰し、Carlinに所属しています。2年ぶりのF2となる松下の目には、前回の参戦からどのような変化が見えているか、話を聞きました。

「チームが変わりました(笑)。昨年のスーパーフォーミュラではDOCOMO TEAM DANDELION RACINGから参戦していましたが、全ラップでプッシュできていましたし、マシンもハイダウンフォースで、F2と比べてマシンもドライビングも大きく異なります。タイヤのデグラデーション(性能劣化)もあるので、タイヤの持たせ方などを少し学びましたが、そこではF2での経験が活きていました」

「今季は幸運にもF2のシートを手に入れることができました。僕はF1ドライバーになることが目標ですし、それはHondaのドライバー全員にとっても大きな夢です。僕やF3のドライバーが、こうしてF1の併催レースで走ることで、関係者に見てもらえる機会が増えることはいいことだと思っています」

「僕自身はドライバーとしてバランスがよくなったと思います。経験が増えたことで、17年と比べると、より頭を使うようになっていますし、いろいろなことを自分のコントロール下に置けるようになっています。どこで抑えて、どこでプッシュするか、オーバーテイクはどうするかといった判断も、以前より成長していると思います。ただ、現時点でまだ思うような結果を残せていないことは残念です。シーズンは長いですし、チャンピオンシップ全体を見据えて、チームとともにどこでポイントを重ねられるかを分析していくつもりです」

松下信治の挑戦

F2へ復帰するために、松下は相当な努力を重ねてきました。もちろん、その先にはHondaのF1ドライバーになるという目標があります。

「ここがF1に近い場所であるということは明らかです。F1と同じコースで、タイヤも同じピレリ製ですからね。だから、HondaにはチャンスがあるならF2へ戻りたいと訴え続けてきました。Hondaの内部でも話し合ってくれて、正式に復帰が決まったんです。僕や他の日本人ドライバーに期待してくれたことが本当にうれしいですし、その想いに応えなければいけません」

ここまで、苦戦が続く松下ですが、アゼルバイジャン・バクーではポールポジションを獲得。しかし、カーリンがレースペースに課題を抱えていることもあり、レースでの最高位はバーレーンでの9位にとどまっています。

「もちろん、チャンピオンを目指していますし、達成可能な目標だと思っています。これまで、バーレーンでは苦戦しましたし、バクーとスペインではトラブルも起きましたが、常に改善点を見つけようと取り組んでいます。それをもっと強化していくことが、今の僕にできることです」

松下信治の挑戦

今週末のモナコは、バクー同様に松下の得意とする市街地コースです。これまでの流れを変えるためには、オーバーテイクの難しいこのコースで予選結果を向上させることが目標となります。

「18年はバクーで走っていないので、2年ぶりとなりましたが、1回目のフリー走行からトップタイム。モナコもそうですが、僕は市街地コースが好きなので、結果がよかったのだと思います。乗ってすぐにいいパフォーマンスができたことに満足していますし、モナコでも同じ流れになってくれればいいのですが、僕らのレースペースの課題について、きちんと理解することが必要です」

「モナコでは16年のGP2時代にレース2で優勝していて、そのときは圧倒的なペースを見せられました。ただ、モナコでは予選が2グループに分けられ、僕のグループは速い選手が多いので、今季一番難しい予選になると思います」

パフォーマンス面はもちろんですが、松下自身はレースへのアプローチについても以前と比べて変化を感じているようです。今は、マシンの中で、しっかりと自分自身を制御できていると言います。

「レースでは前よりもアグレッシブになりました。毎回、安定したスタートを決められているし、感情のコントロールもしっかりとできています。以前よりもメンタルが成長して、より冷静になったと思います。16年のバクーで受けたペナルティー(セーフティカー明けの再スタート時に混乱を招く走りがあったとして、次戦の出場停止処分を受けた)の話をされることもありますが、あのとき僕は一種のパニック状態で自分をきちんとコントロールできていませんでした。あのときそれに気づいて、そこから成長するために懸命に努力し、冷静さを保つように努めてきました」

成熟した大人のドライバーとして、F2に戻ってきた松下。昨年のF2でランキングトップ3に入ったドライバーは、今季3人ともF1へステップアップを果たしています。松下自身も夢に近づいている実感は持っていますが、気を緩めずにさらなる向上に取り組んでいくつもりです。

松下信治の挑戦

「F1が少し近づいたことは事実ですが、当然、結果を出さなければいけません。HondaからはF1に乗れるスーパーライセンスの獲得以外に具体的な目標は設定されていませんが、まずは自分の仕事をしっかりと果たすことが必要です。それなくして目標は果たせませんし、2年前と同様に集中して取り組んでいくのみです。F2でいい結果を残していけば、チャンスが見えてくると思います。気にならないわけではありませんが、あまりF1のことを考えすぎないようにしていきます」

ニュース