2019.03.16
Hondaは今季から、Scuderia Toro Rossoに加えて新たにRed Bull Racingとパートナーシップを結んでいますが、Honda F1テクニカルディレクターの田辺豊治によれば、この新たな提携のためにチームスタッフの拡充を行ったと言います。
「サーキット現場でのHondaのスタッフを2倍に増やしました。そして、レース経験のあるスタッフを両チームに加えるために、去年からチームにいるスタッフをそれぞれのチームに半数ずつ入れました」
「Sakuraを拠点としていたエンジニアがサーキットメンバーに加わったことに加え、MK(ミルトンキーンズ)側でもF1の経験があるエンジニアを補強したことにより、チーム規模は拡大しています」
「日本は、文化も言語も欧州とは全く異なりますし、そういった環境で働いてきていないエンジニアも加わりましたので、簡単ではありませんでした」
「現在、Honda F1には日本人と英国拠点のヨーロッパ人のメンバーがいるので、これを2チーム体制に合わせて組織していくのは、おもしろい取り組みです」
これまでの1年半で、HondaはToro Rossoを通じてRed Bull Technologyと連携してきましたが、今年はAston Martin Red BullRacingのメンバーとも関係を築いていかなければなりません。
Red Bull Racingのテクニカルディレクター、ピエール・ワシェは文化やバックグラウンドの違いがあっても、コミュニケーションの支障にはならないと言います。
「新たなパートナーシップのスタートですから、相手がどのようなコミュニケーションを取るのか、学んでいかねばなりません。昨年から、いい意味で驚きの連続です。Hondaはとてもオープンな人が多いですし、我々にはレースに勝利するという共通の目標があります。こうした同じ考え方が、関係構築に役立っているんです」
「初めて一緒に仕事をする場合、どのようにコミュニケーションをとればいいのかを考える必要があります。これは、会社や組織としての関係以外にも当てはまることだと思います」
「私はフランス人なので、英語でのコミュニケーションに苦しむ気持ちはよく分かります。ただ、Hondaとのコミュニケーションについてはそれが問題になるとは思えません。このパートナーシップはかねてから臨んでいたものですし、お互いの組織構造や人物について理解していくプロセスのほうが大切だと思っていました。だから、ここまでは、すべてがとてもスムーズに進んでいます」
Aston Martin Red Bull Racingチーム代表のクリスチャン・ホーナーがプレシーズンテストの前に言及していたように、新シーズンに向けたスムーズな移行は、Toro Rossoのおかげでもあります。ワシェはそれがコミュニケーションや仕事上の人間関係だけでなく、テクニカル面においても効果があると考えています。
「昨シーズンのToro RossoとHondaのパートナーシップは、今季の我々にかなりの効果をもたらしてくれています。ギアボックスの配置などドライブトレインをHondaのPUとどう組み合わせるのかといったことを考えるのにとても参考になりますし、エンジンマッピングやギアボックスのコントロールなどについても同様です」
「Toro Rossoのおかげで、PUについての理解が深まっていますし、逆にHondaにとっても、我々のマシンにPUをどう合わせていくのかということを知ることができているのではないでしょうか」
「さまざまな側面で、この連携はすばらしいものだと言えます。デザイン部分では、HondaのPUのおかげでシャシー側の自由度が大きく広がりました」
「シャシー側、PU側ともに、お互いのアイデアを出し、その折衷案を探ることが必要でした。互いにとってベストなバランスが見つかれば、最大のパフォーマンスを得られるわけです。例えば、冷却について考えるとき、Hondaは排気系の取り回しについて検討してくれます。そのおかげで、我々車体側はダウンフォースやメカニカルグリップを増加させることができるようになるのです」
「このように、なんでもオープンに話し合える関係性は、これまでなかったものです。というのも、我々は‘ワークス’ チームではなかったからです。でも、今はHondaがRed Bullファミリーのために懸命に取り組んでくれるので、シャシーとの統合はすばらしい仕上がりですし、パフォーマンスを最大限に引き出せるのではないかと思っています」
設計やシャシーとの統合は、田辺TDが重点的に取り組んできたことですが、Red Bullに合わせたものを作り、それをToro Rossoにもそのまま適用できるわけではありません。それぞれのチームでシャシーは異なるので、PUも合わせ込みが必要になります。
「いいマシン、速いマシンを作るために、ここまで議論を重ねてきました。車体を司るチーム側は我々への要望を伝えてくれましたし、逆に我々がどうしたいのか、どんなデザインにしてほしいのか、といったことも聞いてきてくれました」
「ですから、車体、PUの設計を見ながら、お互いにここはもっとこうしてほしいというような議論をして、マシンパフォーマンスの観点から最善の折衷案を見つけることに腐心して、意思決定をしていきました」
「もちろん、両チームのPUは、組付け角度や位置など細かいところに違いはありますが、基本設計は同じものです」
PUのコンセプトは昨年と同様ですが、今季のテストは2チームで走れたので、さまざまな開発テストを行うことができ、多くの面でアップデートが施されています。ドライバーからのフィードバックも増え、収集可能なデータも昨年以上となったことで、テスト終了時からオーストラリアGPの開幕までにさらに開発を重ねています。
「データを見直すとともに、テストで使用したPUを分解して解析しました。かなり慎重に細部をチェックしたんです。外見上でなにか壊れた箇所はないか、変な接触は起きていないかといったことや振動の影響などを調査しました。また、それぞれの部品の摩耗率も確認しました」
「8日間で多くのデータが集まり、ドライバーのフィードバックもたくさんありました。そこで出てきた課題をテスト期間中に潰し込み、一部は持ち帰って対策をしました。ダイナモで開幕戦に向けて細部の調整も行い、ハード面、セッティング面ともに取り組みました」
Red Bullもメルボルンに向けて車体のセットアップと開発に取り組んできましたが、新PUを使ってみて、シーズンの目標はより明確になったようです。
ワシェはこう語ってくれました。「パフォーマンスについてはある程度予測を立てられます。難しいのは、燃料についてまだ疑念がある点です。10年前と比べて、エンジンモードがパフォーマンスに影響を与えるのを見ることが多くなりました。さらに、テストのあったバルセロナとメルボルンはタイプの違うサーキットですから、ライバルたちがメルボルンにどんな仕様を持ち込むのかも分かりません」
「Hondaは期待通りのパフォーマンスをもたらしてくれました。我々がトップ争いに近づけていることは、大きな前進です。昨年の序盤は、トップからかなり離されていたので、今その位置にいることは大きな希望です」
「目標は勝つことです。それは揺るぎません」