2019.06.23
2018年6月19日、Honda F1の歴史に新たな1ページが追加されました。
Toro Rossoを新たなパートナーとして迎えた新シーズンが順調に進み、2019年からはAston Martin Red Bull Racingへもパワーユニット(PU)を供給することを正式に発表したのが、この6月19日でした。
合意に至るまでの経緯を語るには、Toro Rossoとの関係がスタートした2017年9月まで遡らなければなりません。ほどなくして、新設されたテクニカルディレクターに田辺豊治が就任し、チームの再構築を行ったのも、山本雅史Honda F1マネージングディレクターが将来的な2チーム供給の可能性を見据えてのことでした。
山本はこう振り返ります。
「新体制のトップとして田辺さんを迎えて新たなスタートを切ったとき、我々の目標はまず一歩前進することでした。マクラーレン時代の経験もあり、Toro Rossoとはとにかくいいコミュニケーションを取ることを目指したんです。そのときには、将来的なRed Bullとの契約の可能性も見据えていました」
「ヘルムート・マルコ博士とは、サーキット外でよく話すようになっていたんです。Toro Rossoとの合意が発表されたあとからですが、空港で話したり、夕食をともにしたりして、お互いについてさまざまな内容を話していました」
Toro Rossoへの供給が発表されたのは17年のシーズン終盤でしたので、開幕までのタイトなスケジュールの中で、開発になるべく多くの時間を割くことが重要でした。山本はその先に訪れる、Honda PUの性能評価のタイミングを認識していたのです。
「2017年のシンガポールGPというタイミングで決まったために開発の開始は遅いタイミングとなったので、今年とは違い、昨年のToro RossoはHondaエンジンに合わせたシャシーを開発することができませんでした」
「こうした事情もあって、HondaとRed Bullの間では、2018年のカナダGPでPUの性能評価を行おうということになっていました。ということで、最初から締切が決まっていたんです」
18年のシーズン序盤、ピエール・ガスリーが第2戦バーレーンGPで4位、第6戦モナコGPで7位となるなど好結果を残し、Red BullのHondaファミリー入りが実現することになったのです。
「今シーズン開始時は、Toro Rossoと迎える2シーズン目が本当に楽しみでしたし、Red Bullと組むことになって彼らのシャシーと我々のPUがどんな成果を残せるのかも楽しみでした。2019年のRed BullとToro Rossoの2チーム体制に向けた開発は、昨年の正式発表のあと、すぐに開始しました」
「Toro Rossoのみに供給していた際にはチームと一緒に開発を進めていましたが、Red Bullが加わることになったことで、やり方を変えました。Red Bull、Toro Rossoはそれぞれ独立したチームですが、彼らにはRed Bullテクノロジーという技術部門を司る会社があるので、彼らと開発に関する話を進めるかたちになったんです」
「HondaとしてはRed BullとToro Rossoのどちらか向けにPUを開発しているわけではないので、一つの仕様のPUを作り、それをRed Bullテクノロジーがチーム間のバランスを取るようになっています」
Toro Rossoとの1年目は、ハンガリーGPでもトップ6入りするなどの結果を残しつつ、Hondaにとって15年のF1復帰以来初めてとなる2チーム体制に向けて多くの学習とチャレンジを行う期間でもありました。
「田辺さんは4台のマシンを問題なく安定して走らせるための要ですから、とても重要な役割を担っており、ここまで非常にうまくやってくれています」
「Red Bullとの連携が決まってから、田辺さんの下にそれぞれのチームを担当するチーフエンジニアを置こうと考えました。Toro Rossoに本橋さん、Red Bullはデビッド・ジョージさんが務めてくれています。この体制はとてもうまくいっていると思っていて、満足しています」
体制強化を行ったことで、プレシーズンから期待は高まりましたが、それはRed BullとHondaに向けての期待だけではありませんでした。
「正直に言って、本当に楽しみで仕方なかったです。Red Bullは豊富なリソースを持ったとてもレベルの高いチームですので、非常にわくわくしていましたし、Toro Rossoとは2年目でHonda PU向けに開発したマシンで初めて戦うことになるわけですから、どんなシーズンになるのかも楽しみにしていました」
「今シーズンについては、多くのメディアに対してなるべく早く表彰台に立ちたいですし、モナコまでには勝ちたいと話していました」
「開幕戦のオーストラリアでは、2008年以来11年ぶりの表彰台となり、本当にうれしかったですね。Hondaのメンバーは、ここからさらに前に進めるという自信を深めたと思います」
その後、スペインGPで再び表彰台、モナコではタイムペナルティーを科されたものの終始2番手を走行するなど、残す目標は頂点のみ。しかし、山本は短期間でそこに到達するのは大きなチャレンジであることも理解しています。
「もちろん、我々は勝つためにレースをしています。ただ、正直なところ、メルセデスはすべての領域で進化しています。我々も向上していますが、彼らも同じく向上してるので、勝利を手にするのは本当にたいへんだと思っています」
「でも、ポジティブな面に目を向ければ、Red Bullとの1年目のシーズンでとても安定した成績を残せているともいえます。もちろん、マックス(フェルスタッペン)のドライビングがすごいこともありますが、初年度でコンスタントに結果を残せているわけです。これはいいことだと捉えていますし、このまま継続していけば、今季どこかで勝てるチャンスはあるのではと思っています」
Red Bullへの供給を発表してから1年の節目を迎えた今週末も、新たなスペックのPUを投入するなど、成功に向けた、たゆまぬ努力が続いています。
「トータルではここまで順調だと思っています。特にコミュニケーションの面ではうまくやれていますし、PUの開発についてはRed BullとHondaで決めたプランに沿って進められています。Red Bullからパワーはどれだけでも欲しいといつも言われていますけどね(笑)」
残りのシーズンで勝利が訪れるか確実ではありませんが、すべてが適切に機能しており、1年前に予想していた通りの進歩を果たしています。これからどんな成果が見られるのか、期待は高まっています。