2019.03.31
2018年の第2戦バーレーンGP。フリー走行は比較的順調に進んだものの、まさか予選で上位陣にトラブルが出るとはだれも予想していませんでした。マックス・フェルスタッペン(Red Bull)がQ1でクラッシュして敗退し、ルイス・ハミルトン(メルセデス)はギアボックス交換が必要となってグリッド降格。これにより、予選6番手タイムをマークしたピエール・ガスリー(当時Toro Rosso)は、翌日の決勝で5番グリッドからスタートすることになりました。
レースでは、後方から迫ってくるハミルトンにパスされはしたものの、果敢に攻めたガスリーは、ダニエル・リカルド(当時Red Bull)、キミ・ライコネン(当時フェラーリ)のリタイアもあって4番手に浮上。そこからチェッカーまで安定した走りで順位をキープし、自己ベストリザルトとなる4位入賞を果たしました。
この4位という結果は、Toro Rossoにとっても望外の成績でした。遡ること10年前、2008年イタリアGPでセバスチャン・ベッテルが優勝を果たして以来のベストリザルトだったのです。タッグ結成初年度だったToro RossoとHondaにとって、忘れられないレースとなりました。Scuderia Toro Rosso代表のフランツ・トストは、当時をこう振り返ります。
「開幕戦は苦しいスタートでした。パワーユニットが原因ではなく、純粋に我々のマシンに競争力がなかったからです。だから、バーレーンでの結果は本当にうれしくて、チームにとって自信になりましたし、みんなのモチベーションも上がりました」
「バーレーンでは新たなエアロパッケージを投入したので、調子が上向くとは思っていました。ただし、トップチームからライコネン、リカルド、フェルスタッペンがリタイアしたことを忘れてはいけませんね。彼らが残っていたら、我々は7位だったわけですから」
「それでも、我々はチャンスをしっかりとモノにしたんです。普通に戦っても7位になれるパッケージという時点で喜ぶべきことですが、当然4位はさらにうれしいですよね(笑)」
4位という結果だけ見ると驚くべきことのように思えますが、レースウイーク中、ガスリーはすべてのセッションでトップ10入りしており、マシンの戦闘力自体が高かったのです。トスト代表は、ポイント獲得への自信はすぐに持てた一方で、ルーキードライバーがプレッシャーをどう乗り切るかが心配だったそうです。
「レースウイークが始まったとき、チャンスはあると感じていました。セットアップにも手ごたえがあり、オーストラリアよりもパフォーマンスは向上していましたから」
「ピエールはすばらしい仕事をしてくれましたね。彼はバーレーンが好きなんですよ。彼自身が言っていましたが、GP2で好成績を残していたことなど、精神面のプラスはドライバーにとって重要です。過去に成功したサーキットで、お気に入りの場所だという感覚が、すべてをスムーズに進めてくれるんです」
「F1にデビューしたての若手ドライバーが、レースウイーク中ずっといいポジションに付けられたというのは、レースで速いだけでなく、さまざまな能力が秀でていることの証明になったと思います。ピエールは、予選でも十分に速かったので、5番グリッドを手に入れました」
「『ピエール、OK。ハミルトンはトラブルがあって降格になるから、君のほうが前だ。でも、すぐに迫ってくるだろう。君はプレッシャーを乗り越えなければいけないし、すべてをうまくまとめて、全力を尽くすんだ』と話しました。そして、彼はそれを見事に実行したんです。あの週末、ピエールはたとえようもないくらい力強い存在でしたね」
ガスリーはQ3未経験でしたが、予選セッションでは常にトップ10以内につける快走をみせていました。そんな状況で、トスト代表は、セッション中落ち着いて座っていられなかったそうです。
「私は100年くらいF1にいるけど、それでも緊張は収まらないよ(笑)!想像してみてほしいのですが、『いけるのか?ダメなのか?ミスはできないぞ…』と悩んでいると、どんどんプレッシャーは増していくでしょう?」
Toro RossoもHondaも、翌日のレースに焦点を当てていたので、予選後も大喜びはしませんでした。すべてのチャンスをモノにしてここまでこぎつけたのですから、決勝でさらに大きな機会を逃すわけにはいきません。
スタート直前、トストはチーム代表としてドライバーを落ち着かせ、チームにはマシンポテンシャルを最大限に引き出せるように指示をしたそうです。
「グリッド上で、ピエールにこう言ったんです。『我々にはいいペースがあるから簡単には抜かれない。だから、いいスタートを切るだけで十分だよ』とね。バーレーンという厳しい土地で、ロングストレートもあったのに、ポジションを守って4位入賞ですから、大成功です」
「もちろん、ピットではずっとナーバスになっていましたよ(笑)ラップ数を数えながら『ああ、まだ20周もある!』と感じていました。こうやって1周ずつ数えると、余計にレースは長く感じるのにね(笑)しかも、自分たちがいい順位にいれば、『次の周で終わってくれないか!』と感じてしまいますよね」
「表彰台まであと1つという位置でしたが、さすがにそこまで欲は起きませんでした。トップ3とは大きな差がありますし、上位勢3台のリタイアという幸運もあったので、4位のまま完走してくれればと願っていました。もちろん、3位の方がいいに決まっていますが、現実的に考えなければなりません。トップ3との差は開いていたし、それに迫るペースもありませんでした」
チェッカーフラッグが振られたときは、まるでお祭り騒ぎでした。Toro RossoとHondaの全員で、Hondaが復帰以来の最高位になったことを喜んだのです。先週のフェルスタッペンの表彰台獲得のような大盛り上がりでした。
「いろんな感情が沸き出てきましたよ。重要な結果が出たことに、みんな満足していました。チェッカーを見たときにはプレッシャーが消え去り、もはや興奮していませんでした(笑)」
「いつものことなんです。次のレースのことを考えると冷静になる。だから、レースが終われば感情も落ち着くし、普段の態度に戻ります。レース前とレース中は別人になりますけどね(笑)」
トスト代表は、当時この結果をかみしめるようなことはありませんでしたが、1年が経った今振り返ると、Hondaが、Toro Rossoだけでなく将来的にはAston Martin Red Bull Racingとの関係も始められるきっかけになったのではないかと感じているようです。
「もちろん、Toro RossoとHondaの取り組み方が正しいことを証明できましたが、それだけでなく、Red Bullに対してもいいアピールになったと思いますよ」
「Hondaとパワーユニット開発に取り組む計画は進んでいましたし、2019年にはHondaがRed Bullと組んで勝利を目指すことになりました。これによって、我々にも大きなメリットがあるんです。開発スピードは上がるし、リソースなどすべてが向上しますからね。そして、Hondaはオフシーズン中にすばらしい進化を成し遂げてくれました」
「シーズンが終わってみるまで結果は分かりませんが、いい方向へ進んでいますよ」
バーレーンは、チームにとって重要なシーズンの中でもハイライトとなるレースでした。こうした経験を経て、お互いについてさまざまなことを学んだので、トスト代表はオフシーズンの準備が少し楽に感じたそうです。
このバーレーンのような結果を繰り返すのは簡単ではありません。しかし、トスト代表は開幕戦でポイントを獲得できたこともあり、今年はより希望の持てるシーズンになるのではと考えています。
「ワクワクしているし、期待していますよ。いいパッケージがあると思います。競争力の高いマシンに加え、Hondaのパワーユニットもいいですし、ドライバーも強力です。(アレックス)アルボンのパフォーマンスには、いい意味で驚きました。期待はしていましたが、バルセロナテストからいい走りをみせてくれました」
「ダニール(クビアト)もすばらしい仕事ぶりで、アレックス同様にレースでも予選でもポジティブなサプライズを見せてくれます。アレックスは、今年のルーキーの中でも一番の輝きを見せると思いますよ」
「あくまで私の考えだし、願望も入っています。現実的に考えると、もう少し時間が必要でしょう。この話を覚えていてもらって、シーズン後に答え合わせしましょう!(笑)」