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2019.04.28

バクーでのレースに向けて

バクーでのレースに向けて

アゼルバイジャンでのF1レースは、2016年にヨーロッパGPとして第1回が開催されました。カレンダーの中でもユニークなサーキットとして開催が決まったものの、レースは大きな混乱もなく、順当な結果で終わることとなりました。

しかし、その翌年、Aston Martin Red Bull Racingのダニエル・リカルドが優勝したレースでは、大波乱が何度も起きるドラマティックな展開で、バクーが開催地に選ばれた理由がよく分かった大会と言えるでしょう。

バクーでのレースに向けて

今週末は、HondaがRed Bullとタッグを組んでから最初のアゼルバイジャンGPではありますが、Hondaパワーユニットは直近の2017~18年にはポイント獲得を果たしています。ただ、Red Bullのチーフエンジニア、ポール・モナハンは、まず正しいセットアップを見つけるのが難しいサーキットだと語ります。

「このサーキットは両極端な側面を併せ持っています。まず、合間にわずかなカーブはあるものの、そんなことはほとんど影響しないモンスター級のストレート。そしてその一方で、低速コーナーが続くツイスティな市街地区間が存在しています。そこではブレーキを過熱させずに優れた制動力を発揮する必要がありますし、コーナー脱出時のトラクションを稼ぎつつ、アンダーステアを抑えてマシンの姿勢を制御することも重要なので、ダウンフォースをきちんと付けなければなりません」

「その区間を抜けて超ロングストレートに入れば、今度はダウンフォースを減らして走りたくなりますが、そんなことはできませんから、どこでバランスを取るかが難しいのです。連続するタイトなコーナーをきちんと曲がれるクルマを用意して、セクター1と2のタイトコーナーが続くエリアでタイムを稼ぎ、ストレートではとにかく全開で走れるマシンにするんです」

「ここは、いわゆる高速コーナーがないので、主に低速コーナーに合わせたセットアップを施し、市街地コース特有のバンプを考慮した車高を設定します。路面はスムーズに見えるかもしれませんが、なかなかバンピーです。さらに、ブレーキは制動力を維持しつつレース最後まで持つように冷却面にも配慮しなければなりません。スパやモンツァ、シルバーストーンの特性とも違う、独特な市街地コースなので、求められる取り組みも異なってきます」

バクーでのレースに向けて

「シンガポールなど、他のストリートサーキットでも、制動力は必須ですし、ブレーキの冷却も重要です。ただ、長めのストレートはあるものの、ツイスティなコースに合わせて大きなリアウイングで走るので、バクーほどイレギュラーなセッティングにはなりません。シンガポールとの共通点は、バンプへの適合と曲がりやすさを両立させなければならないということですね。そうすれば、壁際ギリギリを攻めて走ることができます」

しかし、バクーでは、ターン16から1へかけて約2.2kmに及ぶストレートをフルスロットルで駆け抜け、340km/h近くにも達するわけで、シンガポールのように大きなウイングを付けて走るわけにはいきません。昨年、Red Bullはこの区間でのパフォーマンスを考慮して、極小のリアウイングを装着しました。しかし、モナハンは今季はそこまで極端な仕様にはならないだろうと想定しています。

「ストレートで競り負けるのは避けたいところです。セクター1と2で引き離し、トータルのラップタイムで上回っていても、ストレートで速いマシンにはターン1の手前でパスされてしまいますから。基本的な方針は、ストレートでポジションを維持できるよう、無防備にならないことですね」

「また、ウイングが小さいとDRSの効果も減少します。予選でDRSのメリット享受とセクター1&2でのタイム向上を狙うためにも、ダウンフォースの増加が定石です」

今年から始まったRed BullとHondaのパートナーシップがいいかたちでスタートしたこともあり、ドラッグ軽減とともにダウンフォースの減少も引き起こす薄いリアウイングをあまり使わずに済む可能性もあるということです。

「Hondaの仕事ぶりは終始プロフェッショナルです。PUは常に準備万端の状態で、彼らの説明通りの性能を発揮します。開発にもとても熱心で、信頼性とパフォーマンスの向上を並行して行っているさまは見事と言うほかありません」

「ここまで、率直に物を言い合いながら仕事ができていますし、運用スタッフも最大限の性能を引き出そうと取り組んでくれています。PUの冷却面も手堅く、最高の形でシャシーとPUを組み合わせることができています」

2018年のToro RossoとHondaの連携により、Red Bull Technologyに知見が蓄積し、今季のAston Martin Red Bull Racingとのパートナーシップ開始に向けた土台は築かれていました。モナハンはそれがなくても今季のサプライヤー変更の成功に自信はあったものの、恩恵を受けたとは感じています。

バクーでのレースに向けて

「チーム間でやり取りできる情報はとても役立ちます。たとえ詳細までは分からなくても、他のチームがPUをどのように使うのかを知るのは興味深いものです」

「マシンへの合わせ込みと実際の運用ともに、Hondaと一体になって取り組めていますし、もしToro Rossoの存在がなくても、PU変更は間違ったチャレンジにはなっていなかったと思います。でも、レギュレーションの範囲内でToro Rossoから情報を得られていますし、それが役に立っています」

マックス・フェルスタッペンの活躍によって、すでに開幕戦で表彰台は手にすることができました。ということは、次の目標は優勝です。ここまで厳しい結果もありましたが、モナハンはRed Bullはバクーでさらに一歩前進できると考えています。Hondaとの連携でチャンスは広がり、まだまだお互いに向上できる手応えがあることが、励みになっているようです。

「PUサプライヤーの変更は、過去5年間のエンジン運用の経験をフイにしてしまうという側面もあります。運用、シャシーへの合わせ込み、必要事項やメリットなど多くの知見を失いますが、新たな挑戦にはそれに見合うだけの価値がありました」

「Hondaがレイアウトやデザインを見直す準備をしてくれて、我々のシャシーに合わせようと取り組んでくれるのは素晴らしいことです。今季は全体的にこうした協調性が向上しているので、過去の知見を捨ててこの変化を選択したことに、かなり満足しています」

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