ファエンツァとビスター、2つのToro Rossoファクトリー

2018.09.11

ファエンツァとビスター、2つのToro Rossoファクトリー

現代のF1には、非常に多くの人間が携わっています。最も規模の小さいチームでさえ、マシンのデザイン、製造、そして現地でのレース要員を合わせて数百人のスタッフが必要で、そこにパワーユニットマニュファクチャラーも含めると、その数は1000人以上にもなります。

チームとマニュファクチャラーが一緒にプロジェクトを進める場合、パワーユニットのサプライヤーとチームが同じ場所に施設を持つことは基本、ありません。現状、その唯一の例外となるチームがフェラーリです。Hondaは日本のHRD SakuraとイギリスのミルトンキーンズにF1の拠点を持っていますが、2018年シーズンからパートナーシップ契約を結んだToro RossoもHondaと同じように拠点を分けた体制を取っています。

Toro Rossoの本拠地にあたるファクトリーはイタリアのボローニャから南東約70キロに位置するファエンツァにあります。以前はここにイタリアのレーシングチーム、ミナルディが本拠地を構えていました。チームは、規模拡大に伴ってその施設を増強し、同時にイギリスのシルバーストーンに程近いビスターに2つ目の拠点を設立しました。

Toro Rosso Hondaという一つのチームに4つの拠点があることは複雑なようにも聞こえますが、チームの代表を務めるフランツ・トスト氏は、日々の業務を進めるにあたり、こうした施設間の距離は全く問題にならないと話します。

「全く問題にはならないです。重要なのは、お互いにコミュニケーションを取る意欲があるかどうかですから」トスト氏はこう説明します。

「ビスターとファエンツァでは、常に良好なコミュニケーションが取れています。ときには、すぐ横に座っているエンジニアとコミュニケーションを取ることの方が難しいと感じることもありますよ」

ファエンツァとビスター、2つのToro Rossoファクトリー

「ビスターはもちろん、日本のHRD Sakuraやイギリスのミルトンキーンズとも、いいコミュニケーションが取れています。これからもそれは変わらないでしょう」

「繰り返しになりますが、コミュニケーションを取るにあたって距離が問題になることはありません。重要なのはそこにどんなメンバーがいて、どうコミュニケーションを取るかということだけです。もしもお互いに話す意欲があれば、何千km離れていようと関係ありません。Toro RossoとHondaには、お互いに協力して作業を進めていこうとする意欲に溢れたすばらしいメンバーがいます」

F1に復帰するにあたり、ヨーロッパで行われるレースの間にパワーユニットのメンテナンスを行う拠点として、Hondaは英国のミルトンキーンズに拠点を設立しました。F1では各チームやマニュファクチャラーの拠点がヨーロッパ、特にイングランドに多くあることも理由の一つです。 一方のビスターも、英国における“モータースポーツ村”の中心地から程近くに位置しています。ここは、レギュレーションの変更へ対応するために設立した拠点です。

「2009年の末に発表された新レギュレーションにより、全チームが指定されたパーツを自ら製造することが義務付けられました。2009年時点ではビスターにある風洞(巨大な扇風機のような物で人工的に風を発生させ、それを模型にあてて空気の流れ方などを再現・観測する装置。F1マシンの空力開発のためにも用いられる)はRed Bull Racingが所有していました。当時、イタリアに風洞を持っていなかったため、我々はそれを買い取って作り直すことにしました」

「ビスターにある拠点は、主に風洞とコンピューターで空気の流れをシミュレートするCFD(数値流体力学)部門で構成されています。ファエンツァにもCFD部門はありますが、そこまで大規模ではありません。現在は5人のエンジニアがCFDを担当しており、全体的なリサーチを行っています。CFD用のコンピューターなどはファエンツァにもあります」

ビスターに重要な役割がある一方で、チームの業務の大部分はファエンツァ近郊にあるファクトリーで行われます。同地では近年、2棟が新たに建設され、2015年に完成しました。これにより、Toro Rossoのチーム業務のほとんどが、今は一カ所で行われています。

ファエンツァとビスター、2つのToro Rossoファクトリー

トスト氏はF1マシンの製造過程について、次のように説明します。

「はじめに、空力に関する全てのリサーチがCFD部門で行われます。空気力学を担当するエンジニアがマシン周りの気流を計算し、過去に製造したパーツになんらかのアドバンテージがあることが分かれば、すべてのデータをビスターにいるエンジニアに送ります」

「風洞が配置されているビスターには、約100人のエンジニアが在籍しています。ここでは実車の約50%の大きさのモデルを使っての実験が実施できるんです。製造されたパーツは、まず風洞でのテストに回されます。そこでパフォーマンスの向上、さらにCFD部門で収集したデータとの相関性が確認できれば、実車サイズのパーツをデザインしていきます。これはファエンツァで行うことができます」

「パーツのデザインが終了すれば、いよいよ製造作業に入ります。機械生産の約25%、カーボン生産の90%が我々のファクトリーで行われています。パーツがサプライヤー、もしくはToro Rossoのファクトリーから上がってきたら、品質検査室でパーツの耐久性と強度をチェックした上で、完成したパーツを組み上げていきます」

ファエンツァとビスター、2つのToro Rossoファクトリー

CFD部門はToro Rossoの2つの拠点にまたがっていますが、風洞でのテストが終わってからは、ファエンツァに拠点を構えるデザインオフィスが実車サイズのパーツデザインを担当しています。

「エンジニアやデザイナーは、それぞれの目的別にグループ分けがされています。エンジニアはパフォーマンス解析部門、レースエンジニア部門。デザイナーはボディワーク担当部門、サスペンション部門、ギアボックスと油圧を担当する部門、システム部門といったかたちで分かれています。かなりの人数ですが、我々より規模の大きいチームではもっと多くのメンバーが働いています」

「ファエンツァとビスターでは常時、ビデオ画像によって互いの風景がシェアされています。お互いに、今なにをしているのかがいつでも分かるようになっているわけです」

しかし、4拠点が円滑にコミュニケーションを進めていくには、それだけでは不十分です。HondaとToro Rossoは、今、そしてこれから先のパートナーシップの価値を最大限に高めるべく、定期的に話し合いの場を設けています。

「我々のファクトリーには多くのミーティングルームがありますが、その内のいくつかはHRD Sakuraとミルトンキーンズに繋がっています。日本のメンバーともほとんど毎週、1回か2回のビデオ会議を行っています」

ファエンツァとビスター、2つのToro Rossoファクトリー

「チーム間の相互作用の大部分はレースウイーク中にもたらされます。レースウイークには最低1回としていますが、実際にはほとんどのウイークで2回から3回のミーティングを行っており、山本さん、田辺さん、浅木さんとテーブルを囲み、ありとあらゆることを話します。もちろん、彼らの方でも日本のメンバーと連携を取っています」

「それに加えて、ミルトンキーンズとHRD Sakuraとは、ほぼ毎週、1回か2回のビデオ会議を行っています。これらのことから言えるのは、我々は非常に良好なコミュニケーションを取れているということです。Hondaとの契約が決まった直後からHondaと我々にはいい関係性がありました。チームとしてうまく連携が取れていますし、Hondaサイド、Toro Rossoサイドでもさらに大きく進歩を遂げてきていると思います」

「Hondaと歩んでいくことにすごく自信を持っていますし、将来に向けても非常にポジティブな気持ちです」

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