インディ500 勝利のパワー

2018.05.26

インディ500 勝利のパワー

昨年、今回と同じ週末にインディアナポリスとモナコで開催された2つの偉大なレース、インディ500とモナコGPは、これまでにない注目を集めました。

なぜなら、フェルナンド・アロンソがインディ500でデビューを飾ったことで、F1とインディがさらに結び付けて語られるようになったからです。

インディ500 勝利のパワー

昨年はHonda Performance Development(HPD)の一員としてインディ500に臨んでいたHonda F1テクニカルディレクター、田辺豊治は次のように語ります。

「インディ500はインディカー・シリーズの1戦ですが、他のレースとはまったく違いますし、ただのレースではないのです」

「1993年に私がインディカー・プロジェクトを始めた時には、インディ500の偉大さを感覚としてよく理解できていませんでした。しかし、2014年に再び自身が担当となりインディ500で優勝したときには、その凄さを思い知らされました」

「例えば、一般のファンの皆さんに2000年のインディカー・シリーズの年間チャンピオンについて聞いても多くの人は答えられないと思うのですが、2000年のインディ500の勝者が誰だったかについてはみんなよく覚えているのです」

インディ500 勝利のパワー

田辺は1年前、HPDのシニア・マネージャーとしてインディ500の会場にいました。米国のHPDは、F1プロジェクトで言うところのミルトン・キーンズ拠点と同じ位置づけですが、彼は昨年までのHPDでも、現在と同じように世界でHondaのプレゼンスを上げるための努力を重ねてきました。そしてそのための最善の方法が、レースに勝つことでした。

Hondaが過去13年間で11勝を挙げているインディ500は、田辺にとってもHondaにとっても特別なレースです。そして昨年の佐藤琢磨の優勝により、インディ500は日本にとっても特別なレースになりました。

田辺はこう言います。
「インディカー・シリーズに参戦した日本人ドライバーは今まで何人かいましたが、インディ500で勝った日本人ドライバーは昨年の琢磨選手までいませんでした」

「琢磨選手の勝利は、それまでの他のドライバーの勝利とは違いました。日本でとても大きなインパクトがあったのです。日本におけるモータースポーツの人気向上に繋がったと思います」

「昨年の勝利の後、日本や米国の知人から、沢山の祝福のメッセージが届いたのには驚きました」

インディ500 勝利のパワー

佐藤琢磨とHondaには深い結びつきがあります。彼は鈴鹿サーキットのレーシング・スクールを卒業すると、その後F1にステップアップしジョーダン、BAR、スーパーアグリなどのチームでキャリアを積みました。

田辺は2004年と2005年にジェンソン・バトンのチーフ・エンジニアで、同時期には長谷川祐介がチームメイトの琢磨のエンジニアでした。田辺と琢磨はインディカー・シリーズの前に、既にF1で同じチームで仕事をしていたのです。

インディ500 勝利のパワー

私たちはF1時代からの旧知の仲です。2013年にHPDに異動になった私は、ロングビーチのレースで琢磨選手と再開し、彼はそのレースで優勝しました」

「インディ500で琢磨選手が優勝に向けて戦っている姿を、特別な思いで見ていました。また、プラクティス、そしてレース中にも他のマシンのHondaエンジンに不具合が続いていたので、最後の数周は本当にハラハラしながら見ていました」

昨年のインディ500でに周囲の注目は、彼以外のHondaのドライバーに集まっていました。しかし実際のタイトル争いは、佐藤琢磨とインディ500で3度の優勝を誇るシボレーのカストロネベスとの戦いになりました。

「カストロネベスはインディカー・シリーズのトップ・ドライバーですし、インディ500でもとても強いので脅威でした。しかし、最後の2~3周のところでカストロネベスはオーバーテイクに失敗し琢磨選手との距離が広がったので、彼の勝利を確信しました」

佐藤琢磨の優勝によって、Hondaは過去14年間での12勝目を手にしました。Hondaと繋がりが強い日本人ドライバーが優勝により、その勝利はさらに特別なものになりました。

 

インディ500 勝利のパワー

シーズン中で最も走行距離が短い市街地サーキットのモナコとスーパー・スピードウエイを500マイルに渡って走るインディ500ですが、一般に想像されるよりも多くの共通点があります。

HPDでの仕事について、田辺は以下のように語ります。

「日本とアメリカで、レースエンジンのキーとなるテクノロジーに関して情報の交換をしています。それぞれのパーツはそれぞれの拠点で開発をしているものの、ターボチャージャーやダイレクト・インジェクター、燃焼装置などに関しては、インディカーで使用しているものと、F1や日本のSUPER GTの間で、比較的類似したスペックのものを使用しています」

つまり、これまでのさまざまな分野での田辺の経験が、現在のF1プロジェクトでの仕事に繋がっているのです。インディ500で勝利した経験を、今週のモナコGPや今後のHonda F1プロジェクトの成功に繋げるためにレースに取り組んでいます。

「F1に限らず、Hondaがレースに参戦する時には、常に勝利を目指しています。冷静に現状を見つめることも大切ですが、勝利を目指して進化を続けることも大切なのです」

Red Bull Toro Rosso Hondaはモナコでのポイント獲得に全力を傾けますが、決勝が終わると田辺も米国でのレースの行方を気に掛けることでしょう。

「インディ500も観戦すると思います。昨年に比べるとHondaのマシンは競争力がないようにも感じますが、インディ500は長いレースなので最後まで何が起きるかわかりません」

Hondaは今週末二つの偉大なレースを戦う唯一のマニュファクチャラーになります。しかし、モナコとインディアナポリスのレースを続けて観戦するのは田辺ひとりだけではないはずです。

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