2017年10月29日(金)

Honda Racing Insights-世界で戦うHonda Racing

2017年のF1日本GP、土曜の昼下がりを迎えた鈴鹿サーキットに、V12エンジンの音色が響き渡りました。HondaのF1参戦50周年を記念して、当時のF1マシン「RA300」のデモンストレーション走行が行われたのです。

佐藤琢磨選手の手によって、S字コーナーをスライドしながら駆け上がるRA300。その姿は、Hondaにとってのモータースポーツの重要性が、半世紀前から今日まで変わっていないことを象徴していました。

それから少し間を置いてF1日本GPの予選が始まり、最先端技術の粋を集めた2017年型F1マシンが登場。F1は世界で最大の人気を誇るモータースポーツであり、Hondaの動向にも大きな注目が集まります。それゆえに昨今のF1におけるHondaの苦戦は、他のカテゴリーでの成功が霞んでしまうことにもつながりかねません。

Hondaのモータースポーツ部長である山本雅史はこう話します。

山本雅史「確かに、F1以外のレースでの成功が霞んでしまうかもしれません。でも、多くの人がF1で戦うHondaを見て、話題にしてくれていますし、それがメディアなどへの露出につながっていることも事実です。確かに、現時点ではHonda F1に関するニュースで前向きなものはあまり多くありませんが、すべてのお客様とよりよいコミニュケーションを取るという点では意味があると思っています。もちろん、もっともっとよくしていかなくてはなりませんが」
山本はF1以外のカテゴリーにも携わり、Hondaは二輪・四輪ともに大きな成果を挙げています。
「Hondaは世界最大の二輪車メーカーですから、マルク・マルケスがタイトル連覇を果たしたMotoGPをはじめ、WSB(スーパーバイク世界選手権)やAMAスーパークロス(米国)といったカテゴリーはとても重要です。さらには、トライアル世界選手権で11連覇という偉業を成し遂げた、トニー・ボウというライダーもいますし、二輪カテゴリーでも多岐に渡るレース活動をしているんです」
「Hondaを魅力的なブランドであると思ってもらえることが大切なので、さまざまなカテゴリーを通じて二輪車ユーザーの皆さまへアピールをしていかなければなりません。Moto2クラスでのワンメイクエンジン供給なんていうこともやっているんですよ」

マルク・マルケス

「四輪カテゴリーでは、SUPER GT、スーパーフォーミュラ、インディカー、WTCC(世界ツーリングカー選手権)に参戦しています。Hondaは日本の会社ですから、国内のファンの皆さんへHondaのメッセージをお届けするためにも、国内シリーズへの参戦はとても重要です」

「今季タイトル争いをしているSUPER GTとWTCCは、市販車ベースのマシンで戦うカテゴリーなので、お客さまは実際に売られているHondaのクルマがレースをする姿を見ることができます。これはフォーミュラカーのレースと大きく異なる点ですね。もちろん、フォーミュラでもHondaは長い歴史があり、参戦する意義は大きいと考えていますし、エンジニアとドライバーの能力を磨く実験室という意味合いもあります」

そのガスリーに、日本のレースについての印象を尋ねました。

ピエール・ガスリー「スーパーフォーミュラは、Hondaとトヨタによる激しい戦いの舞台です。Hondaは大企業ですばらしい施設を持っていますが、なによりもエキサイティングなのは、働くみんなが情熱を持って取り組んでいるのを感じられる点です」
「彼らのモチベーションはとても高く、トップに立ちたいと本気で考えています。そういう大きな目標を持つ人々と仕事ができるのはうれしいことです」

ガスリーが「ダウンフォースについてはF1に最も近いマシン」と語るスーパーフォーミュラ。そこでマニュファクチャラーとともに働く経験が、彼のキャリアの中でも大きな成長につながったようです。そして、日本のファンについても尋ねると、

ピエール・ガスリー

「すごく熱狂的なんですよ!」と笑顔で語るガスリー。「日本のファンはみんな本当に情熱的で、Hondaには特に大きな声援を送ってくれます。日本に来るまでこんなに人気だとは知りませんでした。どのレースウイークでも、人々の熱気を感じることができるんです」

日本のファンから人気を集めるドライバーといえば、ジェンソン・バトンでしょう。彼は、8月に行われた鈴鹿1000㎞でSUPER GTに初参戦。2009年のF1チャンピオンからしても厳しいレースだったそうですが、その経験をさらに深めたいと感じているようです。

ジェンソン・バトン 「SUPER GTは僕にとってとても特別なカテゴリーでした。ここ数年ずっと注目してきましたし、3メーカーによる戦いが大好きなんです。マシンの見た目が違うので忘れがちですが、モノコックなど主要部品は共通化されています」
「その中で、Hondaだけが、ミッドシップエンジンを採用しています。車両規定が同じDTM(ドイツツーリングカー選手権)のメルセデスやBMW、アウディはみんなフロントエンジンですし、日本でも日産とトヨタは同様です。だから、Hondaは適合させるためにかなりの労力を割かなければなりませんでしたし、ミッドシップが有利だとしてハンディウエイトも科せられています。でも、マシンは速くて、まるで“ビースト(野獣)”のようです」
「Hondaチームと働いたのもいい経験になりました。参戦するのは5台ですが、ミーティングにはみんなが集まって情報を共有し、議論するんです。そして、3つのメーカーがしのぎを削って争う姿は最高ですね。ドイツのDTMのように大人気で、日本ではF1とほぼ同じくらい重要度の高いレースになっていると思います。だから、その一員になれたのは本当によかったです」

過去3年間、McLaren-Hondaのドライバーとしても活動してきたバトンは、どちらもさくらに拠点を置くF1プログラムとSUPER GTチームには、共通点が多くあると語ります。

「F1以外で参戦してみたいと思うカテゴリーは少ないのですが、SUPER GTは間違いなくその一つです。マシンだけでなく、メーカーの力の入れ具合も魅力ですし、ファンの作り出す雰囲気がすばらしいのも理由です」

ジェンソン・バトン

「富士スピードウェイや鈴鹿で開催されるレースには、10万人ものファンが集まります。それ以外のレースでも各地から観客がやって来るんです。新幹線に乗れば移動は容易なので、どの大会にも多くのファンが訪れます」

2017年、スーパーフォーミュラでは惜しくもタイトルを逃し、SUPER GTはHonda勢が2勝を挙げて最終戦を控えています。その一方で、国際格式のレースで今季最大の成果と言えるのが、佐藤琢磨によるインディ500の優勝でしょう。

佐藤琢磨

佐藤琢磨「信じられないほどの結果を残しました」と、佐藤はインディ500を振り返ります。HondaエンジンユーザーのAndretti Autosportでインディ500を制覇した佐藤。フェルナンド・アロンソもチームメートとして参戦しました。「インディ500は、勝つのが一番難しいレースかもしれません。理由はたくさんありますが、とにかくすべてが完璧に進まなければ成し得ないことなんです」
「長いレースですが、間違いなく人生で最高の瞬間でした。インディ500の優勝で夢がかないました。参戦するだれもが勝利を夢見るレースですから」

佐藤のレースキャリアは、Hondaが設立した「鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)」から始まりました。SRSは数々のトップドライバーを輩出しており、Hondaヤングドライバーズプログラム傘下の、松下信治(F2)や福住仁嶺(GP3)も同スクールの出身です。佐藤のレース界で成功したいという熱意はF1だけにとどまらず、ついには日本のモータースポーツ史上最大の栄誉とも言える成果を手にしました。

山本は「琢磨選手のケースは、我々にとっていいお手本です。苦しんだ時期もありましたが、勝利によって状況が一変しました」と評しています。「私たちも、F1で同じことをしたいと思っています。2018年はトロ・ロッソとともに技術開発を続けていき、究極の目標は、MotoGPやインディカーと同じようにF1で成功することなんです」

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