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第18戦 ブラジルGP

ブラジルGPプレビュー

2008年のF1シーズンも、この第18戦ブラジルGPで幕を閉じる。Honda Racing F1 Teamはこの最終戦を戦うべく、サンパウロへと向かう。同市郊外インテルラゴスにあるアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェは、全長4.309km。ここで全71周のレースが開催される。

サーキットは、サンパウロ市に飲料水と電力を供給するための2つの人造湖の間に位置し、「インテルラゴス(湖の間)」の名前の由来もこれにちなんでいる。ここで最初のブラジルGPが開催されたのは、1973年だった。以来、レイアウトは何度か変更されている。最も顕著だったのが1990年の改修で、それまで7.8kmあったコースが、現在の長さに短縮された。同時に、1975年に生涯唯一のGP勝利を遂げた地元の英雄パーチェの名前が、このサーキットに冠された。

このコースはまた、今季3つある反時計回りのレイアウトのサーキットの1つである。逆方向に走るため、ドライバーの肉体的な負担は大きい。路面の凹凸のひどさも、毎年指摘されるところだ。さらに、全GP中最も高い、標高800mに位置している。

Hondaの両ドライバーは、ともにここで表彰台に上がっている。ルーベンス・バリチェロは2004年、ジェンソン・バトンは2006年だった。インテルラゴスの近くで生まれたバリチェロは、幼いころからこのサーキットに通っていた。そして6歳から、近所のカートコースで走り始めた。まさにここは、彼のホームGPなのである。

テクニカル・チャレンジ

高い標高と凹凸のひどい路面により、技術的には2つの挑戦を強いられる。まず、通常より気圧が低い標高800mを走る場合、エンジンパワーは減少し、さらに空力効率にも影響が出る。

一方、コースは昨年のレース前に再舗装されたものの、悪名高いバンプは依然として残っている。特にターン4“Descida do Lago(デシダ・ド・ラゴ)”のブレーキング地点での凹凸は、やっかいな存在だ。底付きを避けるために、マシンは通常より車高を上げなければならない。しかしそうすると、ディフューザーによるダウンフォース効率が落ちてしまう。

ここには2個所のオーバーテイクポイントがある。スタートしてすぐの“セナのS字”。そして、裏の直線からのターン4である。しかし最も重要なコーナーは、ターン12“Juncao(ジュンカオン)”である。マシンはこの坂を駆け上がりながら、スタート・フィニッシュラインまで全開で走り続ける。好タイムを出すには、立ち上がりにおける優れたトラクション性能が不可欠である。

ブリヂストンは、ここにソフトとミディアムの2種類のスペックを持ち込む。これは昨年のブラジルGP時より、1段階ずつ硬いコンパウンドである。それでも曲がりくねったインフィールド区間は、特に路面コンディションの悪い初日などでは、グレーニング(ささくれ摩耗)が発生する恐れがありそうだ。

 エンジン全開率:61%
 ブレーキ:中
 ダウンフォースレベル:中/高、8/10
 タイヤ:ソフト/ミディアム
 タイヤの使い方:中
 平均速度:214km/h

チームトーク

ロス・ブロウン|Honda Racing F1 Team チームプリンシパル

―2008年最終戦に向けて、どのような思いがあるか?
「ドライバーズ、コンストラクターズの両選手権ともに、最終戦ブラジルGPで決着がつく。インテルラゴスの雰囲気は特別だ。その上、ブラジル人ドライバーがタイトル争いに絡んでいるのだから、興奮は頂点に達するだろう。インテルラゴスはドライバー、エンジニアの双方にとって、非常にチャレンジングなコースだ。この週末はきっと例年以上に、盛り上がるだろう。コース自体は高低差も大きいために、ほとんど3次元のレイアウトといってもいい。その上、反時計回りだから、高速の左コーナーもある。ドライバーにとっては、肉体的にかなり厳しい挑戦となる。2008年シーズンはチームにとって、満足のいく一年とは言いがたい。しかし、それは早くから2009年のマシン開発に向け、発想も資源もシフトしていたからだ。ブラジルはそんな苦しかった一年の締めくくりであり、戦闘力を増して、復活する前触れのレースともなるはずだ」

ジェンソン・バトン

―初めてポイントを獲得したのは、2000年のここでのレースだったが、インテルラゴスは、走っていて楽しいと思うか?
「サンパウロはシーズン最終戦の舞台としては、最高だと思う。街はすばらしいし、ブラジルのファンは本当に熱い。GP週末のインテルラゴスの雰囲気を、僕はいつも大いに楽しんでいるよ。コース自体も難易度が高く、攻めがいがある。凹凸のひどさは悪名高い。どこにどんなものがあるのかきっちり把握して、できるだけ衝撃をやわらげないと。それから大部分のサーキットとは逆の反時計回りの周回だから、特に首にかかる負担が大きい。筋肉を痛めないためには、事前の入念なトレーニングが必要だ。今年は厳しい一年だったけれど、シーズンの締めくくりに最高のレースを見せるために、全力を尽くすつもりだ」

ルーベンス・バリチェロ

―故郷サンパウロでレースをするのは、どんな気持ちか?
「ブラジルGPは、僕にとってはいつだって特別なレースだ。今年のドライバー、コンストラクターズの両タイトル争いがここまでもつれ込んだことは、ブラジル人のファンにとって本当によかったと思っている。きっと大興奮の週末になるはずだ。インテルラゴスが特別なのは、ここが僕のホームサーキットで、すぐ近所で生まれたからだけじゃない。たとえばCurva do Laranjinha(クルヴァ・ド・ラランジーニャ)に代表されるような、すばらしいコーナーを持つレイアウトだからなんだ。それから1コーナーも、抜き場所として申し分ない。ここで一番難しいのは、高速と低速、両区間のコンビネーションだ。いかに最適なセットアップを見つけることができるか。特に低速コーナーの続くインフィールド区間は、十分なグリップが必要だ。とにかくマシンを信頼する。路面の凹凸を避けるために車高が高くなるから、十分なメカニカルセットアップも求められる。家族や友人も来てくれるし、何より多くの地元ファンが応援してくれる、かけがえのないグランプリだ」

アレックス・ブルツのコースガイド

ブラジルはシーズンを終えるに、ふさわしい場所だ。地元ファンたちのF1にかける情熱はかなりのものだし、今年は何といっても地元のフェリペ・マッサ(フェラーリ)がチャンピオン候補なんだから。

コース自体も、ドライバーにとっては大きな挑戦だ。スタート・フィニッシュラインを通過した時には、7速全開。ターン1でブレーキングにかかろうという時点で、速度は317km/hに達している。このコーナーはバンク角がついているし、クリップポイントはブラインドで見えない。だからこのブレーキングは、実に面白いんだ。できるだけ遅らせれば、先行車を抜く大きなチャンスが生まれる。

そこから右へと切り返しながら下っていって、出口では4速まで上げる。ターンインでうまくノーズが入ってくれるよう、ちょっとスロットルを戻した方がいいかもしれない。それからエントリーでバンプがあるから、これも要注意だ。マシン挙動が、不安定になるからね。ここはインテルラゴスでも屈指の難しいコーナーで、今年はトラクションコントロールがない分、もっとやっかいだろうね。次のターン3は長い左コーナー。ここは普通に、全開でいけるだろう。

そして裏のストレートを抜ければ、ターン4だ。ここのブレーキング地点も、ひどい凹凸がある。7速で到達して、90mのサインでフルブレーキ。マシンに大きな負担をかけずに、スピードをできるだけ殺さないこと。そのためには、できるだけスムーズな運転を心がけないとね。コーナリング中は、マシンの動きに素直に任せる。そしてできるだけ早く、スロットルを開けるんだ。クリップは必ず外さないこと。そうしないと、立ち上がりで大きく膨らんでしまう。

ターン5は、特に問題ない。そこから丘を上っていくと、ダブルクリップの右コーナー、ターン6と7が待っている。このクリップはすごく長いし、その最中に丘の頂上に達するから、リアがふっと軽くなる。ここをいかにうまく抜けるかが、かなりラップタイムを左右するね。でもここを完ぺきにクリアできるようなバランスに仕上げることは、ほとんど不可能だよ。

そこからは、低速区間に入る。ターン8は、2速の右コーナー。必ずイン側の縁石に、しっかり乗ること。凹凸がひどいけれど、これをしっかり使わないと、タイムアップは望めない。初日には相当滑りやすいけれど、そのうちグリップがついてくる。レース当日までにどれくらいのラバーが載るのか、その見極めも重要だ。

もう1つの丘を上りきって、次の左コーナーのクリップめがけて突っ込んでいく。ここを速く走るには、コーナーへの飛び込みを自分のイメージよりずっと速く行うこと。思いきってやれば、それは可能なんだ。縦Gがかかるから、普通以上のグリップが期待できるからね。このコーナーは、実にすばらしい。特に軽いマシンのときにね。そこから短い加速で、ヘアピンのターン10に向かう。ここのブレーキングは、すごく滑りやすい。前輪が簡単にロックするから、できるだけ自分を抑えるようにしないとね。

ターン11は、全開での下り左コーナーだ。続くターン12は、このコースで最も重要なコーナーと言っていい。ギアレシオによって2速か3速かの違いはあるけれど、そこからの立ち上がりをいかにスムーズに行えるか。あとは1コーナーまで、ひたすら全開だからね。ここでスピードが乗るかどうかで、タイムは全く違ってしまう。ブレーキングは、できるだけ遅らせる。そうでないと、タイムロスが大きすぎる。とはいえ、あくまで立ち上がり重視なのを忘れずに。そして、イン側の縁石に思いきりよく乗っていく。でも勢いがよすぎると車輪が空転して、立ち上がりのトラクションが効かなくなってしまうから、注意が必要だ。

ブラジルにおけるHonda

ブラジルでの年間生産能力は、南米市場における好調な販売状況を反映し、生産開始当初の5万台から、2008年8月に12万台に拡大。2007年のHondaの四輪販売台数は、前年比27%アップの8万5749台。フィット(欧州名Jazz)が好調で、とりわけ、ガソリン仕様に加えて2006年に投入したシビック、フィットのフレキシブル・フューエル・ビークル(FFV)が好評だ。

一方、南米全体での2007年のHondaの二輪販売は、前年比25%アップの153万台。ブラジルでの年間生産台数は150万台へと能力拡大。さらに、2009年初めに、年間生産能力を200万台へと拡大する計画となっている。

ブラジルにおけるearthdreamsプロジェクト

チームが推進するearthdreamsプロジェクトでは、サンパウロを拠点に1996年から環境教育をテーマに活動しているMeninos do Morumbiを支援。Meninos do Morumbiは、プロミュージシャンのフラビオ・ピメンタ氏によって設立され、支援している若者の数は4000人以上。音楽教育のほかにも、スポーツやIT、環境、美術、英語教育など幅広い活動を行う。また、1000人を超える若者に対して日々、食事を提供している。