モータースポーツ > F1世界選手権 > 第15戦 シンガポールGP プレビュー
第15戦 シンガポールGP

シンガポールGPプレビュー

Honda Racing F1 Teamは今週、第15戦シンガポールGPを戦うべく、東南アジアへと向かう。同国でのF1GP開催は、史上初めて。一周5.067km、全61周のレースは、シンガポール市内の風光明媚なマリーナ沿いに特設された市街地コースで行われる。そして夜間にレースが開催されるのも、F1の長い歴史の中で初めてのことである。

午後8時からの決勝スタートは、チームにとっても主催者にとっても、文字通りのチャレンジである。コースとピットレーンは、2000ワットのハロゲンライト1500機で照らされる。安全性を考えて、これらのライトは4メートルの距離をあけ、地上10mの高さに設置されている。照明によってもたらされる3000ルクスという明るさは、通常のスポーツスタジアムの4倍の明るさである。

シンガポールは、今季5つある市街地レースの最後のイベントとなる。F1GP自体の開催は初めてとはいえ、この地域はモータースポーツと無縁とは、決して言えない。たとえば1960年代、そして1970年代初期には、「フォーミュラ・リーブル」が、シンガポールのトーマスロード・サーキットで行われた。さらに最近では、300km北のセパン・サーキットで、マレーシアGPが開催されている。

テクニカル・チャレンジ

このコースは、すべてに公道が使われている。全部で23のコーナーを有し、今季3つある反時計回りのコースの1つである。1速と2速コーナーが多いため、平均時速は175km程度にとどまりそうだ。これはモナコとほぼ同じ速さであり、必然的に最大レベルのダウンフォースを付けることになる。

8月に戦われたもう1つの初市街地GPであるバレンシア同様、HondaはシンガポールGPについても入念な準備を重ねてきた。すでに数カ月前にコースの3Dスキャンを実施し、舗装表面の状態や、コーナーの形状など、豊富なデータを得ている。そしてこの情報は、ファクトリーのシミュレーションプログラムに組み込まれ、活用された。

夜間レースという性格上、気温より路面温度の方が低くなる可能性も考慮しなければならない。当然、かなり滑りやすいはずで、そこにガードレールが迫るコースという条件が加われば、迫力のあるレースが展開されることだろう。

 エンジン全開率:50%
 ブレーキ:ミディアム
 ダウンフォースレベル:高、10/10
 タイヤ:ソフト/スーパーソフト
 タイヤの使い方:中
 平均速度:175km/h

チームトーク

ロス・ブロウン|Honda Racing F1 Team チームプリンシパル

―シンガポールGPは、どの点が特に難しそうか?
「夜間に行われること、そして何より初めてのコースでレースを戦うことは、チーム全員に大きなやりがいをもたらす。実際、シンガポールに向けて、我々は実に楽しみながら作業を進めてきた。照明の下でF1マシンが走行するのも、初めての経験となる。これに関しても、チームはかなりの調査を重ねた。特に年初に行われたMotoGPの夜間レースは、とても参考になった。さらにスポーティングディレクターがシンガポールを訪れて、ライティングのテストを行っている。彼は現地の施設の充実ぶりに、非常に感銘を受けていた。それからテスト兼リザーブドライバーのアレックス・ブルツは、24時間レースの経験がある。彼の体験談やアドバイスも、とても参考になった。

この週末は、天候も非常に重要な要素だ。高温多湿の上に、現地予報によると、9月の降水確率は通常、50%といわれている。チームにもドライバーにも、非常に難しい環境だ。とはいえ、バリアに囲まれたコースで戦われるこのGPが、それらの要素でさらに面白くなることは間違いないだろう。

この未知のサーキットに少しでも早く適応するため、2人のドライバーはブラックリーのシミュレーターでかなりの周回をこなした。コースレイアウト、各区間での使用ギア、そしてダウンフォースレベルを、この装置を使うことで事前にある程度理解できる。実際のコースは非常にタイトで、曲がりくねっていて、場所によってはかなり狭い。ひょっとすると、モナコより遅いかもしれない。それでいてモナコのような難しさを、すべて兼ね備えている。気温はかなり高いだろうから、ブレーキを十分に冷やして、エンジンを的確に管理することも、相当難しそうだ。

空力的には、今季最大のダウンフォースを付けることになる。タイヤもモナコと同じ、ソフトとスーパーソフトの2種類になる。ただし大きく違うのは、路面温度が気温とほぼ同じか、それ以下ということ。そして、レースが進むにつれて夜が更けていくので、路面温度はさらに下がるということだ」

ジェンソン・バトン

―F1初のナイトレースに対して、どのような準備をしてきたか?
「普通、ヨーロッパ外のアウェイのレースというと、できるだけ早く現地に飛んで、時差に慣れることが必要だ。でもシンガポールのようなナイトレースだと、話は全く違ってしまう。コースに関しては、ファクトリーのシミュレーターで、できるだけ多く走り込んだ。シンガポールには、レースの始まる週の初めにいくようにして、現地の時間帯に極力慣れないようにし、基本的にはヨーロッパの時間帯に沿って、行動する。でもこれは、実際には結構大変なことだ。現地では夜中にずっと起きていて、朝になってから寝るわけだから。そして昼過ぎに起きて、夕方からのミーティングや走行に臨むわけだ。

そんな調子だから、このレースに関しては実に注意深く、週末のスケジュールを決めていった。そして必要なときに、しっかり能力が発揮できるよう、十分な休息と栄養を取ることに集中する。いずれにしても初めてのナイトレースに参加できることには今からワクワクしているし、照明の様子も早く見てみたいね。いろいろな困難に出くわすかもしれないが、でも早く走りたくてしょうがない」

ルーベンス・バリチェロ

―初開催のシンガポールGPへの意気込みは?
「レイアウトだけ見ても、同じように初めての市街地コースとなったバレンシアとは、ずいぶん違う。1、2速のコーナーが多くて、全体のスピードはかなり遅い。でもターン7で、バリアに迫りながらかなりのスピードを乗せていくあたりは、かなり攻めがいがありそうだ。シミュレーターでかなりの周回をこなしたことで、一周が大体どんな感じとか、ブレーキングの位置など、大まかな印象はつかめた。でも、シミュレーターでは、ライトの下で走ることが実際にどんな感じなのかは、まるでわからない。いろいろな情報を聞くところによると、どうやら日中の光よりさらに明るそうだ。カタールでのMotoGPを見たときも、あまりに照明が明るくて、本当に夜に開催されているとは思えなかった。ずいぶん昔にはカートの12時間レースにも出たし、94年にはインテルラゴスで、スポーツカーの24時間耐久レースに出場した。このときには夜間、かなりの量の練習走行もこなしている。だからナイトレースがどんな様子かは、ある程度わかっているつもりだ。8月のバレンシアは初開催にもかかわらず、実に運営がしっかり行われていた。同じ驚きをシンガポールで感じることを期待しているし、とにかく週末のレースが楽しみだ」

トラックサイドビュー

ロン・メドーズ|Honda Racing F1 Team スポーティングディレクター

7月にFIA(国際自動車連盟)とともにF1チーム側の一員として、シンガポールを訪れた。そのときに視察したマリーナ沿いの施設の充実ぶりには、本当に強い感銘を受けた。ピットガレージの広さが6m×20mあり、しかも、それが各チーム、3つ確保されている。作業環境は、抜群といっていいだろう。

視察の時点では、照明は周回の始めと終わりだけに設置されているだけだった。しかし、それを見た限りでは、コース上の視界の点で問題はないはず。ドライバーたちは明るさを増すオレンジ色のバイザーよりも、むしろ照明と先行車のテールランプ、そしてダッシュボードの明かりなどでまぶしさを感じないよう、逆にやや色のついたものを使った方がよさそうだ。

唯一、問題になりそうなのは、ピットレーンだろうか。ここだけは、照明がピットレーンの真上に位置している。つまりピットインの最中には、アウト側の車輪が影になりそうだ。そうするとタイヤ交換を行うメカニックたちが、作業が円滑に行えない恐れがある。もちろん全チームが同じ条件だが。

コース自体は、すばらしいの一言だ。シンガポールの名所旧跡に沿った、純粋な市街地サーキットで、しかもモナコ同様、毎日数時間は一般のファンにコースが解放される。路面舗装は、さすがに通常のサーキットのようなスムーズさは望めない。また、コース幅も場所によって違う。ある区間は片側3車線のハイウェイを使っているし、そうかと思えば本当に狭い場所もある。さらにバリアで囲まれているから、すごい閉塞感を感じるだろう。

主催者側は一周の間に、3回のオーバーテイクの機会があると予想している。実際にその通りなら、レースは面白い展開になるだろう。それから、週末に考慮すべき最大の要素の一つが天候だ。シンガポールは夜間によく雨が降り、この時期の予報も同様らしい。となると、レースはまた違った様相を呈するだろう。

スタッフや機材に関しては、通常のアウェイのGPと同じと考えている。とはいえスケジュールだけは、見直す必要があるだろう。この週末は、ヨーロッパ時間で行動する。つまり夜働いて、昼間寝るということだ。すべてのチームにとって、経験するすべてが初めてのことであり、実に興味深い週末になりそうだ。

 シンガポールGPタイムスケジュール(現地時間)

 9月26日(金)
  フリープラクティス1 19:00〜20:30
  フリープラクティス2 21:30〜23:00
 9月27日(土)
  フリープラクティス3 19:00〜20:00
  予選 22:00〜
 9月26日(金)
  決勝 20:00〜

シンガポールにおけるHonda

Hondaは、シンガポールで二輪、四輪、汎用のビジネスを行っている。1958年に二輪のビジネスをスタートし、現在35%のシェアを誇る。四輪は1969年にビジネスをスタートし、ディストリビューターであるKah Motorが担い手となり、2007年は11.4%のシェアとなっている。シビックが最も多く販売され、2003年に発売されたシビック ハイブリッドは前年比160%となっている。

さらに、Hondaは、安全運転普及のため、シンガポールの2つのドライビングスクールをサポートし、マレーシア、インドネシア、インドなど近隣諸国に対し、教育活動も行っている。