現在のコンディション
F1マシンのコクピットというのは、あらゆるスポーツの中でも屈指の、過酷な環境といっていいだろう。内部の温度は50℃を超え、減速やコーナリングの際には、体重の5倍もの力がドライバーにかかる。
バトンは肉体、そして精神的な鍛練がもたらすものを、十分に自覚している。それゆえに彼は、現役ドライバー中で最も鍛えられたドライバーの1人という評価を得ている。シーズン開幕前にはいつも、ランザローテ島のラ・サンタ・クラブで何度もトレーニングキャンプを張り、自転車やランニング、水泳、筋力トレーニングを集中的にこなすのである。
今年はさらに、トライアスロンにも新たに挑戦した。初戦のセブンオークス・スプリント・トライアスロンは、400mの水泳、27kmのバイク、8kmのランニングというプログラムで、250人中16位完走を果たしている。さらにウィンザー・トライアスロンでは、オリンピック距離にもチャレンジ。1500mの遠泳、43kmのバイク、10kmのランニングをこなして、1700人中117位という成績を挙げている。
―なぜ、トライアスロンに挑戦したのか?
「苦痛をともないながらも、自分の肉体を限界までプッシュするのが好きだから。それにほかの誰の助けも借りないという点も、好きだね。挑戦するのは、僕1人だけ。もし遅ければ、それはすべて僕自身の責任だ。6月初旬のウィンザー・トライアスロンは、すごく大きなイベントだった。沿道にはたくさんの観客がいて、僕の名前が叫ばれているのがすごく不思議な気がした。というのも普段はヘルメットを被っているから、観客の声は全く聞こえないからね。聞こえるのはただ、エンジンの音だけなんだ」
―3種類の競技のうち、最も得意なのは?
「ウィンザーでは、水泳が一番いい成績だったね。テムズ川を1500m泳いだんだけれど、ゴールしたときには1700人中90位だった。幼いころから水泳には慣れ親しんでいたし、この競技はなによりテクニックがモノをいう。その点が、すごく気に入ってるね。だから僕は何年もかけて、自分のスタイルを確立した。いまだに人からは、水の中でちゃんと進めてないって言われるけどね!」
―トライアスロン参戦は、ドライビングにも好影響を与えてくれそうか?
「一番の好影響は、身体が鍛えられることだね。特に自転車は、乳酸への耐性が高くなる。レース中の激しい振動が、乳酸の形成を促進するんだ。それから水泳は、上半身の鍛練にいい。首も鍛えられる。そしてなにより、F1と同じように、トライアスロンも戦いなんだ。現役ドライバーの中で、僕ほど身体を鍛えているヤツはそういないと思う。この自信はすごくポジティブな気持ちに自分を奮い立たせてくれるんだ」
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