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第6戦 モナコGP

モナコGPプレビュー

今週末、Honda Racing F1 Teamが挑むモナコGPは、世界で最も有名な自動車レースといわれている。豪華クルーザーが並ぶハーバーを背景に、モナコ公国の曲がりくねった市街地コースを疾走するレースは、機械と人の双方にとって特別なチャレンジとなる。

一周3.340kmの市街地コースは、平均時速約160kmと、全GP中で最も低速である。また、最大限のダウンフォースが要求され、ガードレールまで数ミリに迫る走りで、78周を走りきることが求められる。ドライバーにとっては、一瞬も息の抜けないサーキットである。

モナコGPは1929年に第1回が開催された歴史的なレース。それだけに、昔ながらの習慣も依然として残っている。たとえば、通常より1日早い木曜日に初日走行が行われるのは、ここモナコGPだけである。

テクニカルチャレンジ

技術的な部分だけをいえば、現在のモナコでは、多くの人が考えるようなことはそれほど問題にならない。コースは近年、何度も再舗装が施され、空力や足回りのセットアップに関しても、ほかの常設サーキットで行うセットアップの範ちゅうに収まるようになった。

ダウンフォースは最大限。したがってドライバーとエンジニアは、メカニカルグリップの向上に専念する。とはいえ、初日1回目のフリー走行でセットアップを大きく変えることは禁物だ。路面にラバーが載るほど、マシン挙動がどんどんよくなっていくからである。

レース中の追い抜きは、ほとんど不可能だ。そのため、予選で1つでも上のグリッドを獲得することが勝負の生命線となる。20台のマシンがいっせいにタイムを競うQ1では、いかにクリアラップを取るかが重要になるだろう。

 フルスロットル:60%
 ブレーキ:ミディアム-ハード
 ダウンフォースレベル:ハイ、10/10
 タイヤ:ソフト/スーパーソフト
 タイヤの使い方:ミディアム
 平均速度:160km/h

チームトーク

ロス・ブロウン|Honda Racing F1 Team チームプリンシパル

―モナコGPに向けて、どんな準備を進めてきたか?
「フランスのポールリカール・サーキットで、3日間のテストをこなしたばかりだ。最初の2日間は、モナコのコース特性に合わせた、ハイダウンフォース、超低速のレイアウトで、マシンを走らせた。モナコ仕様の空力パッケージに加えて、スペインGPで投入したニューパーツに、多少の改良を加えたものもテストした。低速コーナーが連続するモナコでは、ドライバビリティのよし悪しがカギだ。その部分がよくないと、コーナー立ち上がりで大きくタイムをロスするし、ドライバーも思いきって攻められない。それから、今回のテストでは、ブリヂストンの新しいスーパー・ソフトタイヤも試してみた。もう1つのオプションタイヤ同様に、この週末、十分なパフォーマンスを発揮してくれそうだ」

ジェンソン・バトン

―モナコで速く走るための秘けつは?
「モナコは本当に特別で、ほかのどのグランプリとも違うレースだ。ただし、今年初めて行われるバレンシアとシンガポールも、市街地レース。モナコとどう違うのか、あるいは似ているのか、その比較も楽しみだ。モナコを走るときは、とにかく一瞬も気が抜けない。最高の集中力を保ったまま、78周を走りきる。そうでなければ、すぐにクラッシュする。そして速く走るには、バリアを恐れず、正確さを心がけること。レースに向けては、予選でいいグリッドを取るしかない。追い抜きはほぼ不可能だから、スタートが一番の勝負になる。そこで最高のダッシュができたら、1コーナーまでに順位を上げられる」

―モナコに住んでいることは、レースをする上で有利なことか?
「僕には3つのホームGPがある。シルバーストーン、日本、そしてここだ。とはいえ、モナコに住んでいるからといって、レースをする上で有利なことなんてない。普段のモナコとレース週末とでは、全く違う街になってしまう。この4日間は目が回るほど忙しいし、どこかに出かけるなんて不可能だ。クルマでは身動きを取れないから、歩くか、スクーターで移動するしかない。モナコGPが好きなのは、F1ファンにとっても最高のグランプリだから。こんなにも近い場所でマシンやドライバーを見られて、あの音を聴けるんだから」

ルーベンス・バリチェロ

―モナコGPに向けて、RA108をどうセットアップしていくか?
「モナコは曲がりくねっている上に、路面の凹凸もひどい。容赦のないサーキットだ。ここが全GP中、一番といっていいほど低速にもかかわらず、ガードレールが目前に迫ると、あらためてマシンの速さを感じる。最大のダウンフォースはもちろんのこと、メカニカルなグリップ性能も、ここでは欠かせない。低速コーナーでのハンドリングが、タイム更新のカギになることは間違いない。シンガポールは、ここよりさらに低速のサーキットのようだが。それから今年は、トラクションコントロールなしでモナコを走ることになる。大きな見どころの1つだろう。ブリヂストンのスーパー・ソフトタイヤも、ここでレースデビューとなる。これまた、楽しみの1つだ」

―F1史上最も経験豊富なドライバーとなった今、モナコを戦う上で、その経験は大きな助けとなるか?
「今年で16回目のモナコだから、さすがにコースは知り尽くしている。多くのドライバー同様、僕もモナコが大好きだ。過去4回、表彰台に上がった。モナコでは特に、予選が楽しい。予選がこれだけ重要なGPはほかにないし、とにかく最高の集中力を発揮する必要がある。もちろん経験は大きな助けになる。マシン本来の戦闘力以上に、ドライバーの腕と戦略が、結果に大きく影響する。もちろん、ガードレールにぶつかることなく、マシンをゴールまで走らせることが大前提になるが」

アレックス・ブルツのコースガイド

あれだけ狭いモナコの道をF1マシンで走るのは、正気の沙汰とはいえない。でも同時に、ほかでは絶対に経験できない、すばらしい挑戦でもある。コーナーに突っ込んでいくたびに、新たな決断を迫られる。そして絶対に、ミスは許されない。それを可能にするためには、とにかくリズムを作り上げることが重要だ。そのリズムをつかまない限り、どれだけマシンを滑らせられるか把握できない。

スタート地点での、路面のグリップはすごい。これが市街地サーキットだということを考えると、驚くべきことだ。そこからあっという間に、1コーナーのサント・デボートに到達する。いたずらにブレーキングを遅らせたりせず、マシンに任せて、素直にコーナリングする。イン側の縁石に、軽く触れながら。そしてカジノへの上り坂を、全開で駆け上がっていく。上りきったマッサネでは、マシンが着地した瞬間にブレーキング。かなり思いきって減速しないといけないが、そこでマシンを不安定にさせると、大きくタイムロスしてしまう。マシンを完全に信頼し、大きくマシンを滑り込ませる。

カジノの右コーナーは、3速で抜けていく。トラクションコントロールなしだと、この立ち上がりはけっこう難しい。ミラボーからは、急角度で下っていく。ブレーキングでフロントが軽くなって、そこからの立ち上がりで急激にグリップが回復する。相当に慎重なドライビングをしなければならない。フェアモント・ヘアピンは、すごくRがきつい。でも普通は、ステアリングを一度大きく回すだけで、クリアできるはず。立ち上がりですぐに2速にシフトアップして、ホイールスピンをできるだけ防いだ方がいい。ポルチエの立ち上がりは、非常に重要だ。そのあとのトンネルを通って、長い全開区間が続くからだ。

トンネル自体は、今のV8エンジンではさほど難易度は高くない。とはいえ、すごいスピード感だ。出口では、時速300kmぐらいになってる。そしてシケイン手前の100mの標識で、フルブレーキング。ブレーキング地点は下りだし、路面がちょっとバンピーだ。だからすぐに、ホイールをロックさせやすい。次のタバココーナーも、すごく面白い。進入スピードがちょっとでも速いと、すぐにガードレールにぶつかってしまう。数cm単位のコントロールが、必要とされる。とはいえ出口のグリップは十分にある。だから、できるだけ速さを維持してコーナーに突っ込んで、フロントタイヤのグリップ回復を待つのがいいと思う。

スイミング・プールまでの短い直線は、思いきり全開だ。進入で縁石に乗るから、マシンは跳ねて、オーバーステアになる。大興奮する。2つ目のシケインは、ほとんどルーティーンに近い。でもそうはいっても、壁が迫ってることに変わりはない。少しでもミスしたら、すぐにガツンとなる。ラスカスも、昔ほど難しくなくなった。そして最終コーナーは、くれぐれもオーバースピードで進入しないように。むしろ立ち上がり重視にしないと、メインストレートで失速してしまう。