BIG-1 30周年 歴代エンジニアトーク BIG-1 30周年 歴代エンジニアトーク 自分たちが乗りたいと思う
CB像を追い求めて

1992年に発売された「CB1000 SUPER FOUR」を端緒としてスタートした「プロジェクトBIG-1」は、30年以上たった今も多くのファンを魅了し続けている。2022年には30周年を記念して「CB1300 SUPER FOUR SP 30th Anniversary」と「CB1300 SUPER BOL D’OR SP 30th Anniversary」が受注期間限定で発売された。そこで、初代モデルの開発に関わったスタッフに集まってもらい、BIG-1に込めた想いについて改めて聞いた。

  • 原 国隆原 国隆’92 ’98 ’03モデル
    開発責任者
  • 岸 敏秋岸 敏秋’92 ’03モデル
    デザイナー
  • 工藤 哲也工藤 哲也’05モデル~
    完成車まとめ
目次
後編

その後のBIG-1の進化と変化。
そして不変の価値観

~モデルチェンジを重ね、歴史を紡ぐ~

 CB1000SFは1993年に約4000台を売るヒットモデルとなった。その後、各社から意欲的で個性的な大排気量ネイキッドモデルがリリースされ、さらに1995年に大型免許の教習所取得が解禁されたことも追い風となってビッグネイキッドブームが訪れた。
──BIG-1の次の一手は排気量を1300ccにすることだった。

社内で1000SFを買った者が80人くらいいて、それに加えて購入してくださったお客様にアンケート葉書を出したんです。戻ってきた内容は賛同意見や叱咤激励などに満ちていて、非常に感動しました。それらを参考にしつつ、1300ccへの決定打となったのは“誰にも負けない大排気量を!”というお客様のご意見でした

LPL(開発責任者) 原 国隆
LPL(開発責任者) 原 国隆
X4(1997年)
X4(1997年)

 1300ccとなった1998年のBIG-1では、1997年発売のX4(ここでも原がLPLを務めた)のエンジンをベースとし出力は93psから100psに向上させつつ、低中速をより充実させた。
車体では前後17インチタイヤ、シート高の10mm引き下げなど、乗りやすさを求めた変更が施された(車体サイズは全高とホイールベースがわずかに増えている)。
これは若いユーザーなどからの“あまりにも大きすぎる”という意見を反映させた結果である。

後輩のデザイナーが造形を担当したのですが、この初代1300では水平基調の安定したフォルムを取り入れながらよりエッジを立て、BIG-1として新しい個性を表現したこともトピックでした

CB1300 SUPER FOUR(1998年)クレイモックアップ
CB1300 SUPER FOUR(1998年)クレイモックアップ

1000では“形”で勝負したわけですが、1300はより性能を上げる方向に振ったのです。シンメトリーな左右出しのエキゾーストなどは初代の時から私が構想していたレイアウトでしたが、排気量拡大に伴う性能確保の意味もありました。これに加えてフロントブレーキを強化したことなどで車重が増加したので、それに対応してリアサスペンションにはダブルプロリンクを採用したのです。
しかし、“あれもこれも”と欲張りすぎて、結果的に車両重量が重くなってしまった(車両重量は260kg→273kg)。狙い通り走りのパフォーマンスはより上がったものの、ライダーの走りの意志が反映させにくくなった面もあったかもしれません

CB1300 SUPER FOUR(1998年)
CB1300 SUPER FOUR(1998年)

 だが、1300となったBIG-1は発売された1998年には販売計画を上回る4600台を売り上げ、単年あたりではシリーズ中最大の記録となった(翌年も3000台に迫る売り上げを記録)。
そして2003年、再びBIG-1はモデルチェンジを行う。

ここでの大きな狙いはふたつ、20kgレベルの減量と、スロットル開け始めの滑らかさの実現でした。重くなってしまったという反省も踏まえて、乗りこなす喜び、要するに思うがままに操れる運動性能へと見直しを図りました。もう一度、スポーツバイクとしてのCBの原点を見つめてみようと思ったのです

CB1300 SUPER FOUR(2003年)クレイモデル
CB1300 SUPER FOUR(2003年)クレイモデル

 それまでのグラマラスなボディから、シャープなボディへと変身を遂げた3代目BIG-1は、車両重量は−19kgの254kg、車体サイズは歴代で最もコンパクトでショートホイールベースとなった(全長は初代から2200mmのままだ)。
さらには、シリーズ初のフューエルインジェクション(FI)を採用し、操作性や快適性を大きく向上させている。

コンセプトに沿って、時代のトレンドを取り入れつつスポーツバイクらしいスタイリングへと原点回帰を意識しました。ヨーロッパのトレンドを取り入れてリア周りのボリュームを削ることで、よりスポーティでダイナミックなプロポーションを再現しました。
斜め後ろに跳ね上がったスラッシュ感のあるテールがポイントで、音や排出ガスの規制で大きくなったサイレンサーのサイズを意識させないダイナミックなスタイリングが完成しました。また、初代モデルの原点とも言える水冷エンジンの外観も見直し、カムタワー周りやカバー類の造形をガラリと変えています

CB1300 SUPER FOUR(2003年)
CB1300 SUPER FOUR(2003年)

 シリーズ中最も軽く、扱いやすくなったこの3代目は2年間で5000台以上を売り上げた。そして特異なのは2年後の2005年に早くも大きなマイナーチェンジを施したことだろう。
ここでハーフカウル装備のCB1300SUPER BOL D’ORが登場し、ABSも設定。2005年の高速道路二人乗り解禁を考慮してのことだった。

CB1300 SUPER BOL DO’R(2005年)クレイモデル
CB1300 SUPER BOL DO’R(2005年)クレイモデル

高速道路で長距離を快適に走りたいからカウリングを装着し、さらにはタンデムの際に加減速でパッセンジャーとヘルメットがコツコツ当たらないよう、スロットルの開け始めに一層の滑らかさを与えたわけです。また、エアクリーナーボックスとサイドカバー形状を見直し、その部分の寸法を左右10mmずつ詰めることで、肩幅のスタンスで足をつけるスリムなボディラインを実現しました。シート高はそのままに、足つき性を向上させました工藤

CB1300 SUPER BOL D'OR(2005年)
CB1300 SUPER BOL D'OR(2005年)

 これらの改良は、BIG-1のコアなユーザー層を形成していた中高年ライダー、あるいは高速道路のタンデム走行を熱望していたライダーに歓迎された。しばらくは年間3000 台のペースで売れ続けたのである。

2003年のフルモデルチェンジで手応えを感じたので、2005年モデルでは国内ナンバーワンを目指したのですが、そこで満足できる仕上がりになりました。だから、それ以降はあまり手を入れるところもないだろうなと当時は思っていましたが、2018年の出力向上やサウンドの演出、2019年のSP仕様を見て“まだまだやり方があるな”と感じています工藤

完成車まとめ 工藤 哲也
完成車まとめ 工藤 哲也

 この3代目BIG-1はこれ以降も幾度となく手直しを受け、現在の30周年に至るまで磨き込みが続けられてきた。
以下はマイナーチェンジにおける主だった変更点だが、電装系、カラーやグラフィックなどを含めると、ほぼ年毎に変更を受けている。

2008年吸気レイアウト変更と、キャタライザー追加による排気レイアウトの変更(排出ガス規制対応)とエンジン出力向上(101psは国内馬力規制撤廃後の初のオーバー100ps)。

2010年コンバインドABS採用。フレーム剛性とサスペンションセッティングの見直し。シート高10mmダウン。パニアケース標準装備のスーパーツーリングの追加(専用設計のダウンマフラー装備)。

2014年6速ミッション採用、吸排気系セッティング変更。ホイールデザイン変更。

2018年出力向上(110ps)、アシストスリッパークラッチ採用・前後サスペンションセッティング変更。フロントブレーキ改良。ETC車載器、グリップヒーターを標準装備。

2019年オーリンズ社製前後サスペンション(全高とシート高10mmアップ)、フロントにブレンボ社製ラジアルマウント式モノブロッック対向4ポットキャリパーを採用したSP仕様を追加。

CB1300 SUPER FOUR SP(2019年)
CB1300 SUPER FOUR SP(2019年)

 このように市場の要求や法規制など時代の変化に対応し、進化を続けてきたBIG-1だが、その扱いやすさや快適性が向上しても変わらないのは、初代のCB1000SF以来の絶対的な存在感だ。
特にひと目で分かるBIG-1としての造形や赤/白に代表される車体グラフィックと車体構成は不変であり、そこには“乗りたいバイク、所有したいバイク”という、作り手の想いとユーザーの想いが見事に一致した、ビッグバイクとしての確かな価値観がある。

やはりバイクの王道はネイキッドだと思います。BIG-1では、その時代ごとのスタンダードを考え続けてきた。それは絶対的な数値性能などではなかったのです。時には優等生と言われたりすることもありますが、“優等生で何が悪い。こっちは文武両道、正統派の体育会系部長だ!”と思っています──それにしても、CBR1000F以来、35年も同じクランクケースを使い続けていることには、感慨深いものがありますね工藤

お客様の共感を得る“何か”を創り出すことが我々の仕事ですが、ちゃんとしたDNAを持った種を蒔くことができたからこそ、30年間もお客様に愛され続けているのでしょうね。そしてそのDNAは、BIG-1の生まれる遥か前からお客様と我々の先輩達が長い時間をかけて作り上げてきたCBの本質だと思っていますので、これからもその本質をお客様と共に分かち合いながら、CBは次の世代へと進化していけたらと願っています。

デザイナー 岸 敏秋
デザイナー 岸 敏秋

その時代ごとに感動するポイントは変わるかもしれませんが、お客様の期待をどれだけ超えられるかが大事なのです。結局、CBとはお客様目線で考えられた二輪車であり、そういったものづくりの伝統を受け継いでいくことがHondaの使命ではないでしょうか

 そこにあるのは、性能スペックではない。多彩なラインアップを擁するHondaが、スポーツモデルの中心に“進化する基準”として位置付けているCBは、このBIG-1を端緒としてより積極的に“Hondaらしさ、気持ちいい走り”の追求へと舵を切ることとなった。

左からデザイナー 岸敏秋 開発責任者 原国隆 完成車まとめ 工藤哲也
左からデザイナー 岸敏秋 開発責任者 原国隆 完成車まとめ 工藤哲也

 ひとりの乗り手として、ユーザーと感覚を同じにした作り手自らの思いや感動の具現化の歴史こそがBIG-1の30年間にわたる軌跡である。グローバルな市場の趨勢は大きく変化を続けているが、開発を担う日本の役割は揺らぐことはない。
そして、CBというプロダクト、Hondaというブランドに対して、エンジニアがどれだけ真摯に取り組んだかによって“その進化”は計られるはずだ。

 CBには、日本のものづくりの“魂”が受け継がれている。最後に、CBのフラッグシップであるBIG-1が提示したビッグバイクづくりの在り方を継承するエンジニアたちの言葉で締めくくろう。

1台で街乗りからツーリング、スポーツ走行など、何にでも安心して使える、お客様を選ばないバイクがCBだと考えています。2014年のCB1300SFは最初の出会いから感じていた威風堂々とした格好良さを、ある意味では変えないこととして重視・踏襲しながらも、日本の道路事情を踏まえて時代の変化に合わせて進化させました。日本人の感覚として求められていることを、自分の肌感覚で理解し開発したつもりです2014年CB1300SF/SB
LPL森田 健二

例えCB以外の色々な車輌を経験しても、誰もがまた戻ってくる原点のようなバイクでありたい。その懐の深さを“やっぱりお前じゃないと”と、お客様に感じていただけるのがCBを開発してきた私たちにとっての最大の喜びです2014年CB1100シリーズ
LPL今田 光宣

CBとは一般道で一般的なライダーがスポーツライディングを楽しむための、ロードスポーツの最高峰、王道であると思います。よってCBの伝統は、変えない事ではなく、ロードスポーツの王道にチャレンジし続けることなのです。それは時代と共に進化するものであり、次の時代の王道を切り拓くことがCBの役割なのです2017年CB1000R
LPL内田 聡也

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