基本原理が育て上げた世界初の4輪操舵システム
Hondaが4WSの研究を開始したころ、同様の研究を進めていたグループがあった。芝浦工業大学の小口研究室である。同研究室では、前輪と後輪を自由に操舵することでアンダーステア、オーバーステアをコントロールする研究に取り組んでいた。もともと小口研究室とは、軽自動車の操縦性、安定性の評価を依頼していた関係があり、偶然にも、テーマが一致することを知ったスタッフは共同研究を提案。2人だけで進めていた研究に心強い味方を得ることになった。
芝浦工業大学・小口研究室でのテスト風景。ドラム式台上試験装置は研究の進展に大きな力を発揮した
また、小口研究室にはドラム式台上試験装置があった。これは、前後平行に設置されたドラムにパイプフレームの実験車を置いた装置で、ギヤボックスの歯車を取り替えることで前後輪の操舵比を変え、操縦性、安定性を自在に確認することができた。この装置によって、これまでの理論はデータによって裏付けられ、加えて後輪の最適な操舵比などのデータも手にすることができた。前述の特許出願の際にも、これらのデータは大いに役立ったのである。
こうした追い風を受け、短期間の内に研究は実車テストへと進み、1981年4月、鈴鹿サーキット西コースで初めての実走行テストが行われた。テスト車両には、2台のアコードの前半分を接合したクルマが用意され、前後の操舵を連結させるリンク機構は、小口研究室が手づくりで製作した。
2台のアコードの前半分をつなぎ合わせた4WS実験車。1台の車を4輪操舵できるように改修するよりも短期間で製作できた
「頭の中では多分いけるだろうと思っていても、実際には体験したことのない世界ですから、自分たちの中にも本当にどうなのかな、という不安はありました」(古川)。
テストの結果は、そうした不安をきれいに吹き飛ばした。テスト車は、まさに異次元の運動性能を証明し、理論を実感に変えてくれたのである。この結果を踏まえ、4WSは正式な開発がスタートすることになった。