Illustrator's  Voice

S800からはじまって最新の機種まで、鬼武龍一さんがカタログなどのために描いたテクニカルイラストは数え切れないほど。ホンダの歴史とともに歩んできたそのイラストレーションの世界を、思い出も交えて語ってもらいました。

 クルマの設計がコンピュータを駆使して行われているのと同様、テクニカルイラストレーションもコンピュータを使って描くようになって随分と変化してきています。わたしが始めた36,7年前の時代は、写真をベースにして描くのも邪道とされていて、クルマの前に白い大きなパネルを立てて、とにかく自分の目で見てデッサンしながら描くという作業だったのです。そのうち、まず必要なところをひとつひとつ写真に撮って、それを見ながら描くようになって細かなところは楽になりましたね。それが、いまでは(本田技術)研究所にお願いすると、データがある場合、ボディなどはコンピュータが3次元でデッサンしてくれるまでになりました。もちろん、それをどう仕上げていくかがわたしたちの腕の見せ所なのですが…。

 こんなふうに、時とともに変わってきたところもありますが、エンジン透視図を描く作業はずっと同じですね。エンジンの前にカメラを据えっぱなしにし、分解しながら部品を外す毎に目で見て、写真に撮っていきます。その分解行程の写真の順序を整理し、一枚一枚見ながら描き込んで透視図として仕上げていくわけですが、写真を撮るのも、エンジンを分解するのも、組立直すのもすべて自分でやります。自分で分解し組み立てることで、構造やカタチがより理解でるからです。最近は、トランスミッションなど分解できない部品も多いので、この場合は、図面と知識が頼りですね。また、エンジンなどの断面イラストは、図面から想像しながら描いていきます。もちろん、すべてのイラストは研究所のチェックを受けて完成となるのですが、展示用などでエンジンが実際にカットされると比べられてしまうので、どこか違っていないかと冷や汗ものですね。

 わたしが、この世界に入ったのは大学時代に芸大の先輩から、いいアルバイトがあるからやらないかと言われたのがきっかけで、Hondaのテクニカルイラストレーションのアルバイトは先輩が卒業するときに後輩に引き継いでいく慣わしになっていたものだったのです。実は当時はメカニズムもクルマもあまり好きな訳ではなかったのですが、いつのまにか仕事になり、TOMATOという会社を創ることになってしまいました。現在、TOMATOのイラストレーターは10人。わたしと違って、メカニズムが本当に好きな若い人が集まって、Hondaのテクニカルイラストは4輪に限らず2輪、汎用まで幅広く取り組んでいます。(談)

 

 
TOMATO & DESIGNERS INC.
代表 鬼武龍一さん
パソコンに向かって、あるいは
ロットリングで、テクニカル
イラストを仕上げていく
TOMATOのスタッフ達