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Sportscar web TOP > 大いなる軌跡 TOP > ジョン・ラム

ロード・アンド・トラック誌は後年、NSX(珍しいザナルディ・モデルだった)、フェラーリF355、ダッヂ・ヴァイパー、シボレー・コーヴェット、そしてロータス・エスプリV8というアメリカ市場における主要なスポーツモデルを集めて、ハンドリングテストを行った。ステアリングを握ったのは元F1チャンピオン、マリオ・アンドレッティで、彼はテストのあとでNSXについての印象をこう語った。

ピーター・カニンガム率いるリアルタイム・ホンダ/アキュラ・レーシングチームは、シャシーナンバー0003を有する初期モデルのNSXで、アメリカでも厳しいことでつとに有名な、SCCAワールド・チャレンジ・レースシリーズに参戦し、NSXを勝者に育て上げた。
10年以上もの間にNSX-0003号はレースに参戦すること50回、勝利すること実に14回、表彰台には26回も上っている。現役を退いたNSX-0003号は今、北米Hondaミュージアムに展示されている。
元インディアナポリス500チャンピオン、ボビー・レイホールも、北米市場導入直前の最終段階でNSXの開発にかかわっており、栃木の走行プログラムに参加したり、ラグナ・セカ・サーキットでのライバル車との比較テストも手掛けている。NSXが彼の評価のトップだったことは言うまでもないが、テストに同行したウエハラのことを、「物静かで、親しみやすく、それでいてとても好印象を受けました。今まで出会ったすべてのHondaマンがそうであったようにね(笑)」と語っていた。
ウエハラの開発したもう1台の名車、S2000の日本におけるプレス向け試乗会には、光栄なことに私も招待された。そしてウエハラが若い頃にHonda S800のオーナーだったことや、ロータスのつくったクルマが好きであったと教えられた。試乗会には比較のためにポルシェ・ボクスターが用意されてあったが、S2000がボクスターの好敵手だという事実よりも、私には彼がS800のオーナーであったことや、ロータスのファンであったという事実のほうがS2000を理解する上において、より説得力があったと考えている。
この物語の冒頭に紹介したゲイリー・ロビンソンは、S2000について次のように述べた、「おそらくウエハラはS800やロータスのようなクルマをどう近代化し、そして実用的にできるかを考えつづけていたと思う」
そしてロビンソンは、続いて、ウエハラ自身のHondaにおける影響力を物語る次のようなエピソードを紹介してくれた。
「私は北米におけるアコードとS2000のプログラムにも関わっていて、当然、総括会議などで重要な決定や変更が必要だと認められれば、重役会議に諮(はか)って承認を得なければなりません」
「そういう重役会議では、出席したチーフ・エンジニアの多くが、おおむね従順で、中には、まるで借りてきた猫のようにふるまう人もいます。しかし、ウエハラの場合はアベコベです。席についた彼は、いつものように人懐こい微笑みを満面にたたえています。重役からの質問はほとんどありません。その社内での影響力は、彼の実績と彼に対する社内の人々の敬意を物語るものだと思います」
そしてロビンソンはこう続けたのだった。
「S2000の会議は、死ぬまで繰り返し議論しあうような車種の会議とはまったく正反対のものでした。S2000の会議では必要な事項が話し合われて解散、クルマに乗って帰宅というような、あっけないものでした」

今やS2000は、アメリカの輸入ホットロッド・カー・ドライバーたちの憧れとなっている。アメリカのあちこちで、様々にカスタマイズされたS2000を目にする。ストリート・ストックカー仕様にはじまり、カーボンファイバー製ボンネット仕様、ワイドフェンダーにインチアップ・タイヤ仕様、ターボチャージャー搭載モデルに、公道レース用イクイップメントで装備されたものまで、様々に楽しまれている。そしてそのクルマのドライバーシートには、例外なく悦としてステアリングを握る幸せそうなオーナーたちが座っているのだった。
私は、ロビンソンに最後、アフターファイブやオフの時のウエハラはどんな人間かを尋ねてみた。
「社交的な意味では、彼はまさにこうであってほしいなという好もしい人物だよ。面白くて、よく笑い、とてもリラックスしていて打ち解けた感じだね。そういうときはめったに自動車に関する話は出ないな。でも一旦誰かがクルマをネタに彼を乗せようものなら、彼はまさにエピソードの宝庫で、セナと一緒に仕事をしたときのことを始めに、数々の秘話が、次から次へとそれこそ泉のように湧いて来るんだよ」
「彼が自分の成し遂げたことや、自分の中にある自動車に対する情熱とかを熱く語ることはまずないね。趣味について訊いてもウィンタースポーツとしか答えないしね。その代わり、一旦、テストトラックとかで興味のあるクルマに乗れるチャンスが与えられたりすると、何だかんだと理由をつけて、最低2日間はテストドライブができるようにして、いつまでもいつまでもラップを重ねる、そういうところがあるんだ」

Honda NSXとHonda S2000がなぜアメリカのみならず世界の多くのスポーツカーファンから愛され、尊敬されているか、腑に落ちたように思う。ありがとう、ウエハラさん。