――ニュルブルクリンクでのテストで印象的な思い出など聞かせてください。
いまでこそニュルブルクリンクでの走行テストはかなりメジャーになっていますが、NSXを開発していた当時は、ニュルに拠点を作って常にテストしている国内メーカーはうちぐらいだったですね。
NSXをデビューさせたあとも、インチアップタイヤのテストなどで絶えまなくニュルは走りました。デビュー後で機密という制限がなかったので、よりじっくりとテストできたということもあります。
ニュルの常連といえば、BMWやポルシェがホームグラウンドとして使ってます。ニュルの廻りではタイヤメーカーのテスト車やモータースポーツ好きの一般車の911が非常に多く走ってるんですが、「BB」ナンバーのポルシェを見かけると、本社のある「バイザッハからテストに来ている」と分かるんです。
われわれのNSXは、フランクフルトのオッフェンバッハに研究所があるので「OF」ナンバーなんです。それをポルシェのスタッフは知っていたんでしょう。一般道で「BB」ナンバーのポルシェが走ってくると、向うからパッシングをしてくれるんです。そして、すれ違う瞬間にはお互い手を挙げて挨拶を交わすようになったんです。はじめは気づかなくて、何でパッシングするのかなと思っていたんですが、気づいてからはやはりうれしかったですね。ニュルの同胞として見てくれていたんですね。
ときどき、イギリスナンバーのNSXでテストを行ったことがあったんですが、そうするとポルシェのスタッフはまったく挨拶してくれなかったですね。いつものメンバーと違うと思ったんですね。
また、ニュルでテストするときはだいたい同じ宿に泊まるのですが、何日も同じ所で食事をとっているとさすがに飽きてきますので、たまには違うところに行ってみようと、すぐ近くなんですけど別の店に行ってみたことがありました。
そうすると、そこにいつものポルシェのテストスタッフがいまして、流暢には話せないんですけど、スポーツカーの話をしたりしました。アルコールも手伝ってかこっちも調子に乗って、テスト車の横に乗せてくれと頼んだんです。でも、さすがにテスト車だからダメだと断られました。するとそこに店のおやじさんが割って入り、「そんな冷たいこと言うな」と加勢してくれたんです。「日本からはるばる来ているんだから」と(そう言っているように聞こえただけですけど)。しまいには「俺のポルシェを貸してやるから乗せてやれ」と言うんです。それを聞いたポルシェのスタッフは、しばらく考えていたのですがOKしてくれたんです。
翌朝、約束の時間にニュルに行くと、昨夜のスタッフがいて、店のおやじさんのカレラRSがありました。「じゃあ行こうか」と声をかけられ、横に乗せてもらったんです。そのRSはオリジナルのタイヤを履いていなくて運転に苦労していたようですけど、ポルシェのドライバーがどういう風にドライビングするのか知ることができて面白かったですね。
やはり自分達のクルマの特徴をよく知っていて、安全にタイムを引き出す運転をしているように見えました。911の場合、リアが重いですからコーナーで頑張り過ぎず、立ち上がりを重視しているようでした。コーナー直前で強いブレーキングを短時間で行い、うまくフロントタイヤに荷重をのせてコーナリングする姿勢をつくっていましたね。それから、ニュルは路面がうねっていますから至る所で跳ねて荷重が抜けるんです。当然のことですが、その荷重の抜けを見極めて、次にタイヤがしっかり接地するタイミングを見はからってブレーキをかけたり、ステアリングを切ったり、コースと車の特徴を知り尽くしたドライビングをしていました。荷重がかかっていないときにステアリングを切っても、アンダーステアを出してしまって効率良く曲がれませんからね。
それから面白かったのは、走る前にクロノグラフの腕時計を外して腿とシートの間に挟んだことです。そして走りながら、区間区間で腕時計をチラっと見てタイムを確認していましたね。腕にはめていた方がよっぽど見やすいと思いましたけど(笑)。
話は変わりますが、テストを行うためにコースインしようとすると、開発車どうし鉢合わせすることが結構あるんです。同じくらいのスピードをもっている車同士だと先に走る方がプレッシャーになるので車の中からジェスチャーで「お先にどうぞ」ってやると「そちらが先に」って返ってくる。しょうがないから先にコースインしてバックミラーを見るとピッタリと付いてくる。(笑)
後ろに付いて走りを見ることで相手のポテンシャルが測れるんです。自分達はメーカーの看板を背負って走っているということもあって、正直そういう時のラップは相手を気にしすぎてテストにはなりませんでしたね。(笑)開発車同士の他流試合ではないですが、そういったことが出来るのもニュルだけの特徴です。
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