ホンダ・スポーツ

Hondaが最初につくった乗用車がスポーツカーだったという事実は
いい意味でHondaというメーカーの体質とその創業者である本田宗一郎の人となりを
象徴しているように思われる。S500は本田宗一郎自身の与えたガイドラインをもとに設計された
クルマであった。このクルマが衝撃的なデビューを果たしたのは1963年
本田技研工業創立から15年後のことであった。
Hondaは当時すでに世界最大のモーターサイクル・メーカーとしての地歩を築き上げており
その名を冠したモーターサイクルはレースにおいても参戦後たった3年で
世界チャンピオンになるなど圧倒的な強さを発揮していた。
したがってS500がモーターサイクルの技術を応用した全ローラーベアリング支持の
セミ・レーシング・エンジンを持ったミニ・スポーツカーであったことも納得ができた。
その後、排気量600ccのS600へと進化したあと、1967年にS800がデビューした。
800ccのエンジンを搭載したS800はヨーロッパで販売された
最初のHonda車であった。S800はその完成度の高いエンジンと
美しく可憐なスタイリングとが相俟って良く売れたし、現在でもヨーロッパでは
収集価値の高い一台として多くの人に愛されている。
S800の8,000回転以上でも快調に回る洗練されたエンジン、
魅力的な価格、素晴らしいギアボックス、そして優れたハンドリングは
悪路での乗り心地の悪さという欠点を補って余りあるものであった。
生産型スポーツカーとしては最小排気量エンジンを搭載していたにもかかわらず
その性能は突出したものであった。1967年に私がテストした時には
0-100km/hはわずか13秒(当時の1,438ccエンジンを搭載した
フィアット124Sスパイダーに相当した)で到達し、最高速度にいたっては
決してエアロダイナミクスが良いとは言えないスタイリングにもかかわらず155km/hであった。
S800は個人的にもとても好きなクルマでもあった。
1969年にCar Graphic誌が主催した鈴鹿サーキットでのドライビングスクールに
インストラクターとして招かれたとき、私あてに貸し出されたクルマが
まっさらのS800ハードトップであった。いまだに何故そのときそのS800を買って
ヨーロッパに持ち帰らなかったのかと、後悔している。Hondaが世に送った2番目のリアルスポーツが
今日でも依然として世界のスポーツカーのトップクラスで活躍するNSXである。
最初のテストのあと私はNSXを「いままでにつくられた中で最高のフェラーリ」と評したが
いまでも自動車としてのNSXに対する高い評価は変わっておらず、
仮にヨーロッパにおいてNSXがあまり商業的に成功していないとしたら
それはマーケティングのまずさと、比較的高い価格、それになによりも、1986年から1991年の間
6年連続F1コンストラクターズ・チャンピオンを獲得させたのがHonda・エンジンであったという
輝かしい記録を、効果的に宣伝に結び付けられていないところに問題があるように思う。
しかし幸運なことにNSXはデビューから10年、依然進化を遂げつつ販売され続けている。
S500からNSXというホンダのリアルスポーツの伝統の正統な後継者として
またHonda創立50周年の記念モデルとしてデビューするのがS2000である。
NSXの開発も手がけた上原エグゼクティブ・チーフ・エンジニアのリーダーシップのもとに
開発されたS2000は、Hondaにとっては、近年とみに人気の高い手ごろな
価格の高性能2シーターロードスター市場という激戦区への意欲的な挑戦となる。
ヨーロッパにおける直接のライバルだけとってみても、ポルシェ・ボクスター、
メルセデス・ベンツSLK、BMW Z3-2.8、アルファ・ロメオ・スパイダー、アウディTT、
そしてこの春デビュー予定の、ロータス・エリーゼをベースにしたオペル・スピードスターとあまたいる。
そのうち最初から純粋なスポーツカーとして開発されたのは
横置きミドシップエンジンであるポルシェとオペルの二台だけであり
他は量産車をスポーツカーらしく仕上げたものである。
HondaはS2000開発に際して、いかにもHondaらしいユニークな道を選択する。
まずS2000は純粋なスポーツカーの醍醐味を追求するために後輪駆動であることと
究極のハンドリングと優れたトラクションを実現するために
前後重量配分を理想的な50:50にすることを開発陣に求めた。
Hondaはさらに、Euro 3並びにU.S. LEVという厳しい排出ガス規制に適合した
2リッター自然吸気エンジンで、現存するすべての競争相手を動力性能で凌ぐことは無論のこと、
運転を楽しみながらレーシングカーに近いフィーリングを持つクルマに仕上げるという
過酷な課題を自らに課した。50:50の重量配分に対するホンダの答えが
フロント・ビハインドアクスルというエンジンレイアウトである。
コンパクトな2リッター直列4気筒パワーユニットはコクピットとフロントホイールアクスルの間
バルクヘッドぎりぎりまで後退する形でマウントされている。
こうすることによって、コクピットの後ろにエンジンが積まれたクルマよりも
エンジンまわりへのアクセスも良くなり、芸術品とも呼べるHondaの技術の結晶である
エンジンをより良く鑑賞できるというメリットもある。
またエンジンをバルクヘッドの前にマウントしたことによって
エンジンの前半部分にクラッシャブルゾーン、リアにラゲッジ・コンパートメントを創り出している。
2リッターで超高性能を実現するためには、エンジンのパワーアップと
大幅な軽量化及び良好なエアロダイナミクスを実現することが必須条件となる。
Hondaの最終出力目標は240馬力というとてつもなく高いものであった。
他のメーカーならターボチャージャーという安易な方法を選択するのではなかろうか。
しかしそれは踏めば瞬時に反応するという自然吸気エンジンだけが持つ良さを
犠牲にすることになる。また自然吸気エンジンであれば、
レーシングエンジンの性能を向上させるように、各シリンダーのインテークを
一層コントロールすることによってさらなる改良を加えることもできる。

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