レーシング・マシンのエンジンパワー制限は、装着が義務付けられているエアリストリクターによって行われ、いったんエアのスピードが音速に到達すると、エンジンの回転数や排気量の大小にかかわらず、それ以上のエンジンパワーのアップは不可能な仕組みになっている。
しかしこのエアリストリクターは、最大トルクの増大には影響を及ぼすことはない。したがって、複雑な数式によってエアリストリクターのサイズも計算されることになる。スーパーチャージャー付きやターボチャージャー付きエンジンも当然、排気量の大小にかかわらず、エアリストリクターのお世話になるのだが、パワーはブースト圧によって調整される。
エアリストリクターによってパワーこそ制限されるものの、燃焼効率を改善したり、フリクション・ロスを少なくしたりしてパワーを引き出すか、または燃費効率を高めたりすることによって、マシントータルとしての性能をアップする余地は残っている。
特に燃料タンクの容量がプロトタイプ・クラスは90リットル、GTクラスは100リットルに制限されている条件下では、燃費を良くすることがどれほど重要かはいうまでもないだろう。
数年前から、ヨーロッパとアメリカで(日本でもつい最近始まった)、“ル・マン・シリーズ”と銘打った1000kmあるいは6時間耐久レースが、いずれもシリーズとして年間数レース、レースの時間や距離こそ違うのだがル・マンと同じレギュレーションで行われている。ル・マンに参戦するチームにフルシーズン戦える場を提供するのが主な目的のひとつで、シリーズに参加しているチームとマシンは、デイトナとニュルブルクリンクの24時間レース、およびセブリング12時間レースへの参加資格が与えられている。
そもそも耐久レースが自動車の発展に果した役割はとてつもなく大きい。
24時間休むことなくトップスピードで走り続けることがどれほどレーシングカー、つまり自動車という機械にとって過酷なことか、単純に考えてもおわかりいただけると思う。
現在、最高時速は400km/hにもおよぶほどで、エンジン、ギアボックス、ブレーキといった主要なメカニズムへの負担は想像を絶するものがある。そのひとつひとつが高い精度と品質、そして耐久性を備えていなければ勝ち残ることができないのだから、いかに総合的かつ高度な技術力と細心の注意が必要とされるかはいうまでもない。
0.0001秒、0.0001ミリというミクロの世界での精度が求められる。極論すれば、ほんのわずかなミスのせいで、一瞬にして何年間、何千時間にわたって費やしてきた努力が水泡に帰すのである。
ル・マン24時間耐久レースひとつとっても、ほぼ例年、出場マシンの半分以上が完走できないという事実が、このレースがいかにタフかを如実に物語っている。それゆえに報酬もその分大きく、勝者は類稀なる技術力に対する畏敬とその偉業に対する惜しみない称賛を持って迎えられ、その名は広く世界に知れ渡ることになる。
また、耐久レースを通じて開発されたテクノロジーの多くは、現代の自動車に欠かせないものとなっている。今日当たり前となった四輪すべてにブレーキを装着するという方式も、耐久レースから生まれたものだ。1950年代初期に生まれたディスク・ブレーキもしかり。その威力の凄まじさに、数年後にはディスク・ブレーキがついていなければ高性能車にあらずという状態になったほどだ。
ハロゲン・ヘッドライトが最初に使われたのもル・マン24時間耐久レースにおいてであった。ガスタービン、ロータリー、ターボと様々なタイプのエンジンの実用性と耐久性が試されたのもル・マンであったし、今年(2006年)ディーゼル・エンジンが主役の座に就いたことは、まだ記憶に新しい。(後篇に続く)
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