いいサスって何?ダブルウイッシュボーンがいいの?トーションビームはダメなの?Vol.4 実際のクルマを見ながら確かめてみよう

じゃあ、トーションビームだと?

じゃあ、僕のフィット RSのトーションビーム式のリアサスペンションは?あれ?トーションビームは、アームが1本しか無いから……つまり、この方法で見分けられない……?

最初にもお話ししたように、Hondaはどんなサスペンションの形式であっても同じ考え方にもとづいて設計をしているので、トーションビームもしっかり力を出せるようになっていますよ。

よかった……。

ただ、ご存知のようにトーションビーム式のサスペンションはアームが1本しか無いので、こうやって「アームの位置から線を引っ張る」というような方法で特性を見分けることができません。実際のクルマを持ってきても、外からはサスペンションの特性がわかりにくいので、図で解説しましょう。

これがお乗りのフィットRSのトーションビームですね。

左右のタイヤが同じだけストロークするときには、「軸A」を中心に回転するシンプルな動きをしますが、ロール時には横方向に張られた「ビーム」がねじれることで左右のタイヤの軌道差を吸収する構造になっています。

その場合、目には見えないんですが、実はこのようにダブルウィッシュボーンと同じ3つのアームが存在する場合と同じことが起こって、トーやキャンバーが理想的に変化するよう様に設計されているんです。

うーん、難しい……。

そう、難しいんです。だから、トーションビーム式サスペンションに「弱点」があるとしたら、この「難しさ」なのだと言うことができるかもしれません。ダブルウイッシュボーンはアームの位置さえきちんとしておけば、「横力に対してトーイン」となる特性を簡単に作り出すことができるのに対し、アームを1本しか持たないトーションビームはそれができない。
じゃあ、どうやって狙った特性を作り出すのかというと、その役割はコンプライアンスブッシュが担うんです。

前後方向に入った力をいなして「ぶるぶる」という振動を吸収するパーツですね。振動を吸収するパーツなのに、リアサスが力を出すためにも使われるんですか?

そうです。図を見ると、コンプライアンスブッシュが車両に対して斜めに配置されているのがわかりますよね。この場合、全体の回転中心は、入力点よりも後ろ側になります。右旋回し、タイヤに右向きの力が入った場合は、旋回外側のタイヤはトーイン方向に動きます。

前回のお話を聞いた今の僕ならなんとなく理解できる気がします……。

ただし、この動きをさせるには、どうしてもコンプライアンスブッシュの前後剛性を高くする必要があり、振動吸収とのトレードオフにはなってきます。 私たちサスペンション設計者にとっては、ダブルウイッシュボーンよりもずっと難しくて、逆に言えば腕の見せ所になっているのが、トーションビームというサスペンション形式なんですよね。

なるほど。

というわけで、なかなか遠回りにはなりましたけど、第1回目の「トーションビームはダメなの?ダブルウイッシュボーンがいいの?」というクエスチョンに対しての答えを出すとすると、こういうことになります。
設計者として狙った特性を実現しやすいのはどちらか、と言われたらアームの本数が多くて設計の自由度が高いダブルウイッシュボーン。でも、Hondaが「いいサス」として目指している特性は、トーションビームも、ダブルウイッシュボーンも同じ。スペース、スタイリング、走行性能……何がそのクルマにとって重要なのかによっていろいろと使い分けていますが、形式によって優劣が決まったりするものではないんです。だから、安心して走りを楽しんでもらって大丈夫ですよ。

長年の謎が解けて、愛車への愛着もより深まった気がします。今回はいろいろと教えてもらってありがとうございます!また新しい謎が生まれたらお邪魔しますね!

今回のまとめ

トーションビームはダメなの?ダブルウイッシュボーンがいいの?という問いに答えるとしたら…?

狙った特性を作り出しやすいのはダブルウイッシュボーン

アームの配置によってリアの「トーイン特性」を自在にコントロールできるので、狙ったクルマの運動性能を作り出しやすいのはダブルウイッシュボーン。

トーションビームもダブルウイッシュボーンと似た特性を持たせるように設計されている

アームの配置を利用することができないため、コンプライアンスブッシュの特性を使ってリアサスペンションが「力を出す」ことができるようにしている。

形式は違えども、めざす「いいサス」の方向は同じ!

いろいろなサスペンションの形式はあれども、めざす「いいサス」の方向は同じ!Hondaのクルマは、どれも安心してスポーティーな走りを楽しめるように作っています。

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