いいサスって何?ダブルウイッシュボーンがいいの?トーションビームはダメなの?Vol.3 実はリアタイヤもちょっとだけ「切れて」いる?

「クルマはサスだよ」。クルマに詳しい人がそう言ったりします。「アメリカ車みたいに」「ドイツ車みたいに」などなど、その感触を語る言葉も様々でとても面白いのですが、結局「いいサス」って何なのか、わかるようでよくわかりません……。じゃあ、来る日も来る日もサスペンションのことを考えているエンジニアに聞いてみよう!ということで「サス談義」が100倍面白くなるかもしれない話題を、シリーズでお届けしていきます。

答える人

本田技術研究所
四輪R&Dセンター 主任研究員
天野 英俊(あまの ひでとし)
2015 LEGEND 量産サスペンション開発、その他先行開発機種のサスペンション設計を担当。
現在は車両の運動性能とサスペンションの関係の研究に従事。

本田技術研究所
四輪R&Dセンター 主任研究員
種子田 和宏(たねだ かずひろ)
第3期F1のサスペンション開発担当。シビックのプラットフォーム先行開発担当。
その他先行開発機種の開発を経て、現在は量産開発機種のサスペンション設計に従事。

聞く人

SPORTS DRIVE WEB編集部1号
愛車はFIT RS(MT)。奥さんがクルマに疎いのをいいことに、「ふつうのクルマは マニュアル車」だと吹き込んでいる。

リアタイヤが発生させる「安定させる力」ってなに?

第2回の「振動吸収」の話を聞いてから、なんだか段差を乗り越えるときの振動ひとつひとつを、「いろんなパーツが頑張ってるんだなあ」って、しみじみと味わえるようになったような、そうでもないような……。
今回は「リアサスが力を出す」の話題についてですね。

最初に、第1回でお話しした「リアタイヤはクルマを安定させる力を生んでいる」ということについてご説明します。
まず、曲がるときにタイヤがどのように力を出すかを知っておく必要があります。

“タイヤが力を出す“ですか?また、難しそうですね。

タイヤが出す力はいろいろありますが、今回のお話と関係のある、重要な部分のみ説明しますね。タイヤは回転させながら進行方向に対して角度をつけると、コーナリングフォースと呼ばれる横方向の力を生み出します。このとき、進行方向に対してタイヤについている角度をスリップ角と呼びます。

ずっと疑問だったんですけど、この「スリップ角」の「スリップ」って、あの「スリップ」と同じですか?

同じ意味ですね。進行方向とずれて回転するから「スリップ」角と呼ばれています。

なるほど。あっ、すいません。続きをお願いします。

この「スリップ角」が大きいほど、コーナリングフォースは大きくなります。もちろん限度はありますけどね。実は、車がレーンチェンジしたり、旋回したりするときは必ずこのスリップ角がついているんです。

タイヤはただまっすぐ回転しているわけではないんですね。でも、フロントタイヤはハンドルをきると、角度がつくからスリップ角がつくことが想像できますが、リアタイヤはまっすぐ回るだけですよね?

では、クルマが右に曲がっているときのことをイメージしてくださいね。
まず、右にハンドルを切ると、フロントタイヤが右に切れます。

切れますね。でも、リアタイヤは切れませんよね。

では、そうやって曲がっている時の状態を上から見た絵で描くと、この様になります。どうです?進行方向に対して、フロントタイヤもリアタイヤもスリップ角がついていませんか?

あれ?本当だ。リアタイヤにもスリップ角がついていますね。不思議。

こうやって、フロントタイヤとリアタイヤが出すコーナリングフォースが、車の遠心力に対して抵抗するからクルマはちゃんとコーナーを曲がっていけるんです。よく言う「グリップしている」ってやつですね。でも、私たちが大事にしているのは、ハンドルをきってからこの状態になる過程なんです。

過程?

そう、コンマ数秒のすごく短い時間なんですが、その時の車の動きが運転しやすいかどうかに重要なのです。

その短い間に何が起こるんですか?

まず、冒頭で述べたように、ハンドルをきってフロントタイヤがきれると、フロントタイヤのコーナリングフォースによって、車が回転し始めます。次第にリアタイヤにスリップ角がついてくるのでコーナリングフォース生まれます。そうすると、その力によって車の回転が止まります。これが、リアタイヤに備わる「クルマを安定させる力」なんですね。

なるほど。なんとなくわかります。

ところが、この力だけでは足りないんです。

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