いいサスって何?ダブルウイッシュボーンがいいの?トーションビームはダメなの?Vol.2「振動吸収」の深い世界

「クルマはサスだよ」。クルマに詳しい人がそう言ったりします。「アメリカ車みたいに」「ドイツ車みたいに」などなど、その感触を語る言葉も様々でとても面白いのですが、結局「いいサス」って何なのか、わかるようでよくわかりません……。じゃあ、来る日も来る日もサスペンションのことを考えているエンジニアに聞いてみよう!ということで「サス談義」が100倍面白くなるかもしれない話題を、シリーズでお届けしていきます。

答える人

本田技術研究所
四輪R&Dセンター 主任研究員
天野 英俊(あまの ひでとし)
2015 LEGEND 量産サスペンション開発、その他先行開発機種のサスペンション設計を担当。
現在は車両の運動性能とサスペンションの関係の研究に従事。

本田技術研究所
四輪R&Dセンター 主任研究員
種子田 和宏(たねだ かずひろ)
第3期F1のサスペンション開発担当。シビックのプラットフォーム先行開発担当。
その他先行開発機種の開発を経て、現在は量産開発機種のサスペンション設計に従事。

聞く人

SPORTS DRIVE WEB編集部1号
愛車はFIT RS(MT)。奥さんがクルマに疎いのをいいことに、「ふつうのクルマは マニュアル車」だと吹き込んでいる。

いろんなパーツで、いろんな振動を吸収

前回の「Vol.1 いいサスの条件」編でご紹介したことをおさらいしてみましょうか。
いいサスの条件は、「しっかり振動を吸収できること」「リアサスペンションがしっかりと力を出せること」でしたね。
今回は、どうしたら路面から伝わってくる振動を「しっかり吸収」できるのかを詳しくご紹介したいと思います。

お願いします!!

ひとことに「振動」と言っても、これをくわしく見ていくと「周波数」と「振幅」というものになるんです。なんとなくイメージつきますか?

はい、なんとなく。

「周波数」は、1秒間に振動の山が何個来るか。少ししか来ていないと「低周波」、たくさん来ていると「高周波」と呼びます。振幅は、文字通り振れ幅。今回は、ひとまず振幅のことは忘れて、周波数の方に注目してみたいと思います。この周波数、人間がイメージしやすいような呼び方を付けるとこうなるんですね。

  • 呼び方
  • 周波数
  • ふわふわ
  • 0~3Hz
  • ひょこひょこ
  • 3~8Hz
  • ぶるぶる
  • 8~28Hz
  • ごつごつ
  • 20~40Hz
  • びりびり
  • 28~100Hz

ここに挙げたのは路面からの「振動」として感じられるものですが、これよりもっと大きくなって何100Hzというものになると、いわゆるゴーッ、とかザーッとかという「ロードノイズ」になります。

サスペンションはいろいろなパーツから構成されていますが、おおまかに低い周波数の振動は大きなパーツが、高い周波数の振動は小さなパーツで吸収すると思ってもらっていいです。
たとえば、「ふわふわ」を吸収するのはスプリング、「ぶるぶる」「ごつごつ」を吸収するのはダンパー。もちろん、本当はもうちょっと複雑なんですけどね。

これがサスの花形?スプリング(バネ)とダンパー(ショックアブソーバー)。

それ以外の高周波の吸収は……?

それらを吸収するのが、「ブッシュ」と呼ばれるアイテム。名前くらいは聞いたことのある方も多いかもしれませんが、ゴムでできたパーツで、足回りとボディとの接点のあたりに、いろいろと仕込んであります。

コンプライアンスブッシュ(上がリア用、下がフロント用)。 黒い部分のゴムが、段差を乗り越えた時などの「ぶるぶる」とした振動を吸収します。

ダンパーマウント。金属のパーツの中に、ゴムのパーツが仕込んであります。
その名の通りダンパーの付け根の部分に付いていて、「ぶるぶる」「びりびり」とした振動を遮断。

何か重要そうだということは聞いたことがあるんですが、足回りをのぞき込んでもバネとダンパーしか見えないので、存在を意識したことはなかったです。

地味ですけど、相当重要なパーツですよ。
他にも色々な部分にブッシュは使われていますが、部位によって硬いゴムを使ったり、柔らかいゴムを使ったりと工夫しながら、路面から伝わる振動をうまく吸収して、タイヤを常に接地させ続けられるように設計しているんです。

なるほど……「スポーツだから全部カタければいい!」ということではないわけですね。

レースをする方なんかは、こういうブッシュの部分を金属のパーツに置き換えたりもします。そうすることでゴム特有の「たわみ」が無くなるので、ハンドリングがシャープになったり、限界ギリギリの領域の挙動が掴みやすくなったりします。ただ、そのぶん普段の道では、ちょっとした段差に対してハンドルが取られやすくなったりして、扱いにくさが出てくることもありますね。

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