エンジン開発者に突撃 いいエンジンって何?Vol.4 NSX 「Hondaエンジンのトップ・オブ・トップ」

ハンドリングに貢献するエンジン

さて、次はこちら。

ガション!

こ、これは……?

エンジンマウントです。

なんというか、ものすごく強そうですね……。

エンジンとボディを強固なアルミ製のサブフレームでがっちりと固定しています。これは前側ですが、後ろ側は9速DCTに取り付けられています。これでパワーユニット全体の揺動を押さえて、ハンドル操作に対するクルマの動きに一体感を持たせているんです。

通常のエンジンはメカニカルノイズを遮断するためにヘッドカバーをフローティングさせていることが多いのですが、NSXはメタル・メタルコンタクトさせています。これによっても、ドライバーの操作に対してクルマ全体の動きをよりダイレクトでシャープにできます。

すごいボルトの数ですね。

こうやってしっかりと止めておくことで、車体から大きな入力が入ってもパワーユニットのひずみを抑えられます。エンジン単体で性能を出すだけでなく、クルマ全体の運動性能にも寄与させられるのは、NSX専用のエンジンだからこそできることですね。

NSXだけの特別なエンジンを作るために、海外まで含めたたくさんのメーカーさんやスタッフに協力してもらっています。組立はアメリカですし。

インターナショナルですね。

組立にも、「最高のエンジンフィールを楽しんでいただきたい」というHondaの想いがこもっていますよ。ピストンのウエイトやシリンダーの精度などを精密に管理しながら組み上げ、240km相当のならし運転を実施します。

アンバランスがある場合は、フロント側のクランクプーリー、リア側のフライホイールで調整をします。これがフロント側のクランクプーリー。9か所の穴に必要な分のボルトを入れて回転バランスを整えるので、1台1台ボルトの入っている位置が違うんですよ。さらに、リアのフライホイールは3種類の重量違いのボルトで締め付けることで回転バランスを整えています。

なるほど。

ハイパワー、しかも「使える」ものを

エンジンの出力は507PS……僕の愛車のフィットRSが何台分か、わからないくらいのものすごい世界です(笑)。

これだけのハイパワーを追究するときに問題になってくるのが、ノッキングです。これを解決するために、NSXではシリンダーの内側に、プラズマで溶射した鉄粉を噴射して薄い鉄粒子膜を生成する「プラズマ溶射シリンダー」という技術を使っています。

どう効くんでしょう?

通常用いる鋳鉄製のライナーよりも熱伝導率が高いので、発生した熱をどんどん冷却水に放出できるんですね。
冷却水は燃焼室、エキゾーストポート上部、下部と3つに分けることで理想的な冷却性能を追求してます。

Hondaの考える「いいエンジン」の第一条件である「パワー」。極めるのはものすごく大変ってことですね。

とは言え、Hondaとしては単純な「パワー競争」に参戦するつもりはありません。いまのスーパースポーツにおいて600馬力、700馬力は珍しくありませんが、NSXが目指したのは「使える500馬力」。そのカギになるのが、リアモーターです。

最大トルクは148N・m。1.5Lのエンジンと同じくらいのスペックですね。

そうです。ターボが効くまでの間、このモーターが頑張って、すばやくピークパワーまで持っていきます。
そして、モーターの特徴はなんと言ってもゼロ回転から最大トルクを発生させられること。アクセルのちょっとした動きに対してクルマがすばやく反応するレスポンスを実現できます。これはHondaの考える「いいエンジン」のふたつめの条件ですね。
DCTとモーターの組み合わせは「フィット」を初めとした車種でも採用していますが、NSXの場合はさらなるレスポンスを求めてエンジンに直結しているのが新しいところです。

なるほど。

そして、こちらはコイル。

四角いですね。

丸いコイルは巻くときに多少ヨレても問題ありませんが、四角の場合はヨレを取ってから巻く必要があるので、製造という面ではなかなか大変です。それでも、丸いコイルと四角いコイル、同じ数を巻いても、四角い方が大幅に省スペース化できます。Hondaが重要視する「出力密度」という意味でとても有利なんです。

同じパワーを出すならコンパクトな方がエラいですもんね。この配管は?

冷却水を通すためのパイプです。リアのモーターはエンジンとトランスミッションに挟まれるかたちで配置されていて、風が当たりません。モーターは熱を帯びると性能が低下してしまうので、エンジンの冷却水を利用して直接冷却しているわけですね。

Hondaの思いが詰まったエンジンのこれから

モーターはNSXのみならず、国外のスーパースポーツでの搭載例も増えてきましたよね。

そうですね。モーターが生み出す「レスポンス」は、エンジンには絶対に出せません。一方で、モーターはある回転まではトルクが一定で、そのあとは落ち込んでいくという出力特性を持っています。つまり、高回転になればなるほど出力が低下していきます。

出だしはいいが、ノビは無い……ということですね。EVでスポーツカーを作ろうとすると?

現段階ではものすごく大きなモーターを使うことになるでしょうね。それであれば、エンジンの不得意な低回転域をモーターが補い、モーターの不得意な高回転域をエンジンが担当すれば、低回転域のレスポンスも、高回転のエキサイティングさも両方手にできます。これはHondaのみならず、誰もが考えるところだと思います。

モーターとエンジンの「いいとこ取り」ができる。

そうです。中でも、NSXの場合はフロントにも2基のモーターを持っていて、これでトルクベクタリングによる旋回挙動のコントロールも可能。リアのモーターを使ってエンジンで発電し、フロントのモーターに電気を送ってコーナリングに活かすということもできます。大きな可能性を持った組み合わせなので、これからもっと進化させていきたいですね。

ありがとうございました。

あ、そうそう。NSX GT3に搭載されているのも、これと同じエンジン。レギュレーション上モーターは取り外されていますが、エンジン単体として見ても、このままGT3のレースに出られるくらいの、ものすごいポテンシャルを持っているというのもお伝えしておきますね。

「NSX GT3」。FIA-GT3規定に準じて設計され、世界のレースシーンで活躍しました。エンジンはブロック、ヘッド、バルブトレーン、クランクシャフト、ピストン、ドライサンプまで市販のNSXと共通です。

Hondaの想いがつまったエンジン、これからの展開も楽しみにしています!

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