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2007年9月5日。NSXやS2000などHondaのスポーツカーの開発に開発責任者として携わり続けた上原 繁氏が定年を迎え退職した。
そして同月15日(土)、初秋とは思えない日差しが照りつける快晴の日、NSXオーナーズ・クラブによる同氏の送別会が栃木で開かれた。題して「ありがとう、上原さん」である。
一人のエンジニアが、自らが開発に携わったクルマのオーナーによって送別会が催されることなど、Hondaの歴史の中でも異例ではないだろうか。こうした人と人とのふれあいこそがNSXが求めた“スポーツカーの新しい価値”。NSXのハード進化はひとつの終わりを迎えたが、NSXと人が織りなすソフトの進化はこれからも続くのだ。
イベントのご紹介の前にまず、みなさんはNSXが日本でデビューした日をご存知だろうか。1990年9月13日(木)である。偶然ではあるが、NSXデビューの年と2007年は曜日が同じで、2007年の9月13日も木曜日。そのデビューの日に近い週末ということで9月15日(土)が開催日に選ばれたのだという。NSXオーナーらしきこだわりではないか。
今回の会は、特別なメニューなどを設定せずに、NSXオーナーから上原氏への感謝の言葉を述べることを主体として構成された。会の流れを辿りながら、折々のオーナーの言葉をご紹介していきたい。
会はまず、宇都宮駅からほど近いレストランでの昼食会からはじまった。この場所を選択したのは、お店の前にNSXをずらりと並べることができるからだそうで、三々五々集まったNSXは主催者の意図通りずらりと整列。そのなかに上原氏のNSXもあった。
集まったオーナーたちは、きわめて自然な雰囲気だった。いつものように雑談を始め、上原氏が近くに来ると挨拶を交わす。36年間勤め上げたHondaの退職に際しての送別会だからといって、あらたまった雰囲気はない。
「肩の力を抜いて」「自然体が一番」
上原氏は世界を震撼させるスポーツカーを開発しながら、いつもそう語っていた。もちろん、厳しい表情を浮かべるときもある。しかし、ほとんどが肩の力を抜いた雰囲気を漂わせ、相手の話を吸い取るように聞く。
「上原LPLと仕事をして一番やりやすかったのは、末端の担当者である僕が話を持って行っても、すんなりと聞いてくれるところです。言いにくいことでも積極的に話すような、とても風通しのいいチームでしたね」
S2000のサスペンションパーツを開発した担当者が、そう語っていたのを思い出す。さらに、この送別会がゆったりとした雰囲気なのは、オーナーと上原氏との関係がこれで終わりではないからだろう。
「今日は “ありがとう”の言葉を伝えるHondaの上原さんとの一応のお別れの会ですが、上原さんとのおつきあいはこれからも続きます。NSX fiestaにもいらっしゃるとおっしゃっていました。むしろ、自由人になられたのですから、これからが本格的なおつきあいの始まりかもしれません。何と言っても、上原さんもNSXの一オーナーですから」
この主催オーナーの言葉がすべてを語っていると言えよう。
昼食会のあとは、数台ずつ連なりながら、NSXの生まれ故郷である旧高根沢工場へと向かった。
現地では、HondaでNSXのプロモーションに携わり続けている渡辺が受け入れ準備を整えていた。運良く旧高根沢工場の総務で、NSXを担当していた吉永がおり、NSXオーナーを工場の敷地内に快く受け入れ、「HONDA」のロゴが入った高根沢の建物の前での記念撮影に応じてくれた。
オーナーは、いまはなきNSXの生まれ故郷である工場を懐かしみながら話をし、記念撮影をして次なる会場であるツインリンクもてぎへと向かった。
このあたりから、上原氏へのサイン攻めがはじまる。
「センターコンソールに上原さんのサインをいただきました。もう、ぜったいこのNSXは手放しません」
喜々として語るオーナー。彼らに取って、NSXは単なるスポーツカーではない。NSXを走らせるよろこび、NSXを軸にして広がる人々との出会い。文字通り、NSXはオーナーのみなさんの人生を変えたクルマなのだと実感した。通過点となるクルマの一台では決してないのだ。