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●「夢のスポーツカーライフ」後篇 小林彰太郎
約37年の時を経て復活したもう一台の「S」のステアリングを握り、オープンエアドライビングを楽しむ小林氏。
 欧米の国々はそれぞれ独自の自動車文化を持っている。特にスポーツカーで実際にその地を走ってみると、その違いがはっきり判って面白い。私の場合、個人的にいちばん好きな国はやはり英国である。まず、道路環境がクルマ、特にスポーツカーを愉しむのにもっとも適している。30mph(時速約48km)制限の街なかを抜けると、道は適度の起伏と屈曲に富んだ狭いカントリー・ロードになり、スピードリミットは良識的な50-60mph(時速約80km-97km)に上がる。幌を下ろした2シーターで安全に走るのに速すぎず、さりとて遅すぎることもない。日本との最大の違いは、不法な路上駐車が皆無なことである。ブラインド・コーナーを回ったら、その先に不法駐車している車があって、急ブレーキで危うく難を逃れたなどということは絶対にない。だから英国では、50mph(時速約80km)プラスの中速コーナーでもスローダウンすることなく、美しく刈り込まれた高い生垣をギリギリにかすめ、痛快なコーナリングを敢行できる。カントリー・レーンには、信号がほとんどないことも英国の美点である。その代わり、“ラウンダバウト”と称するロータリー・ジャンクションが、数マイルおきに必ずある。いくつかの道路がここで放射状に集まるが、少なくとも1/2マイル(約0.8km)手前に見やすい標識があって予知できる。ここを時計回りに回るわけだが、唯一のルールは“First come, first served(「先着順」)”である。英国社会では、これがすべての局面での第一法則であり、厳格に守られている。例えば店屋などでも、先客の用が済むまで、あとから来たお客が我慢強く待っているのをよく見かける。ラウンダバウトも同様で、先に入った車が優先権を持つ。
 

 私が英国を好むもうひとつの理由は、市民社会がスポーツカーに対して寛容なことである。特に古い車には同情的である。例えば古いMG同士が行き逢うと、親愛の情をこめて挨拶を交わすのは、べつに英国に限らない。だが、家族満載のワンボックスや、大きな定期便トラックのドライバーなども、同様にライトを点滅させ、手を振ったりして、スポーツカーの愉しさに同感の意を示す国民は、私の知る限り英国しかないのである。
 
 話を冒頭に戻すと、半ばリタイアした今、私の夢は古いスポーツカーとともに、初夏から秋のあいだ、英国のコッツウォルズに住むことだ。この辺りはロンドンから180kmほどの近距離にありながら、ひなびた静かな田舎である。古い車を通じて識り合った"オールド・フレンド"がたくさん住んでいるし、シルバーストンやプレスコットなど、モータースポーツの舞台にも近い。新旧を問わず、スポーツカーにとっていちばん住みやすい国、それはやはり英国だとしみじみ思う。


小林彰太郎(こばやし・しょうたろう)
1929年東京生まれ。幼き頃より自動車を熱愛し、学生時代にはすでに自動車専門誌に寄稿をはじめ、自動車ジャーナリストを目指した。1954年以降、それまで日本になかった新車ロードテストの基準を自らつくり出してテストを行い、専門誌で発表を行った。日本の自動車ジャーナリストの草分け的存在。
1962年に理想的な自動車雑誌をめざして『CAR GRAPHIC』を創刊。その年、Honda S600を欧州に持ち込み、2ヵ月あまりで1万2000kmを走破。S600の素晴らしさを欧州に伝えるとともに、HondaのF1初参戦を自らの目で取材し日本に伝えた。
長年のジャーナリスト活動のなかで日本の自動車づくりに多大な影響を与える評価と助言を行い続けているだけでなく、海外の自動車界と幅広い友好関係を保ち、自動車文化の世界的な交流に務めている。1989年まで『CAR GRAPHIC』編集長を務め後進に道をゆずり、現在は編集顧問として、相変わらず世界の新型車を評価し続けている。
 
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