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| ●Honda F1マシン、RA273を走らせて。(後篇) 宮城 光 | ||||||
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| 宮城氏の驚きは、近年のマシンとのギャップを感じたことだけではない。シートベルトのないF1マシンに乗って、チャンピオンをとった往年のドライバーは、単に運転が上手いだけでなく、強運の持ち主というか人間としての生命力の強さがあったに違いないと宮城氏は感じたのだ。 宮城氏は、緊張感を伴ってRA273のコクピットに納まった。 では、走らせたフィーリングはどうだったのか。 「加速感そのものには、当然ながら時代を感じます。現代のF1マシンのように、衝撃的な加速感はありません。当時の機械式のインジェクションは、現在のもののように守備範囲が広くなく、パワーを出す高回転に至るまでに幾多の犠牲を払っています。低い回転域では、トルクの谷を明確に感じるエンジン特性です」 「逆を言うと、このような特徴のあるエンジンを駆使して走っていた当時のドライバーは、相当に繊細な技量の持ち主だったことが容易に想像できます。コーナーに来てもできるだけ回転を落とさず、エンジンのおいしい部分を使って上手く走らせ、しかもライバルとも闘っていたわけですから」しかし、90°V12エンジンは実にスムーズに回り、排気量が3リッターもあるため、かなりトルクフルであったという。 “質感のある加速感”を味わうことができるマシンだということだ。 「あと、ダウンフォースがありませんから、メカニカルグリップを引き出すよう、足回りはかなりソフトな仕上がりですね。加減速、コーナリングで前後左右にボディが大きく傾きます。そうして荷重移動を積極的に行い、タイヤのグリップを引き出していたわけです」 「タイヤも今のようにグリップが高くはないので、コーナーの奥まで突っ込んで鋭いブレーキングで鋭角に曲がるといった走り方ではなかったと思います。ブレーキは、タイヤのグリップに見合った制動力しかないのですが、とてもコントローラブル。荷重移動とタイヤの滑り、ブレーキやアクセルのコントロールといった技を駆使しながら、何とかコーナーを駆け抜けていったマシンだということをひしひしと感じますね」 はじめてRA273でコースインし、コーナーに向かってブレーキングしたとき、はっきりとダイブしたノーズの動きが印象的だったという。それと、路面の凹凸に応じてしっかりと追従する柔らかさを持ったサスペンションが、現在のフォーミュラカーにはないテイストである。「基本的には、後ろが重たく、アンダーステア気味なクルマなんです。でも、コーナーでアクセルをオンしていくと、荷重がリアに移ってしっかりとグリップしていき、さらに踏み込むとリアがそれに応じてオーバーステアへと移行してくれる。ダウンフォースがないため、かえってコントローラブルな『操る楽しさ』を感じられるマシンでした」 もちろんアクセルを踏み過ぎるとスピンしてしまうが、アクセルに対するリアの動きがすごく掴みやすいという。シフトはHパタンの5速。シフトレバーのタッチにはさすがに時代を感じるものの、ペダルは心地よい剛性感があり、クラッチはそれほど重たくはない。 「速度が上がっていくと、マシンが軽くなっていくのがわかります」これは揚力が働いているからで、ダウンフォースを利用していないマシンの宿命である。現在のF1マシンは、速度を出すほど路面に押さえ付けられ安定する。それとは好対照だ。 「現代を知っている僕らからすれば、ものすごいマシンです。このようなマシンでレースを闘うということは、スポーツマンシップを今より厳しく問われた時代だったんだなと感じましたね」 ジェントルマンであり強運に恵まれたドライバーでなければ、生き残れなかった時代。文化的な背景を持った人々が、プライドを賭けたフェアな闘いを演じた時代だったのだ。繊細な操作が要求されるであろうF1マシン、RA273を走らせた宮城氏は、テストを終えた後にそんなことを感じたという。このマシンを走らせると、古き時代のレースの文化までもが蘇るのだ。 (終わり) 宮城 光(みやぎ ひかる) 元Hondaワークスライダー。全日本GPおよび全米選手権でチャンピオンの獲得経験を持つ。現在は、レースを続けながら、Hondaのフォーミュラドリームや安全運転講習で講師を務めるほか、ホンダ・コレクションホールで動態確認を行っている。1962年11月19日生まれ。兵庫県西宮市出身。A型。 |
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