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●NSX-Tと刻んだ、30万キロという道のり。< 前篇 >
インタビューに伺ったNSX-Tのオーナー、大井さん。ともに30万キロを駆けたNSX-Tのドライバーズシートに座る姿はどこか誇らしげだ。
1990年、Hondaがひとつの夢を実現した。それは、かつてない高い運動性能と快適性能を併せ持ったピュア・スポーツカー、NSXの誕生である。そのNSXに魅了されてオープントップモデルのNSX-Tを購入し、およそ10年間で約30万キロもの距離をNSX-Tとともに駆け抜けた一人のオーナーがいる。そのオーナーとは、神奈川県のとある病院にて循環器科の医師を務める大井さんという方である。現在は、そのNSX-Tとともに、新型のNSX TYPE Rも所有。NSXライフを思う存分堪能している。

取材当日の時点で、大井さんのNSX-Tの走行距離メーターが刻んでいた数字は29万7388キロ。しかし、大井さんのお話を聞いていると、そのNSX-Tはこれからもまだまだ活躍してくれそうな様子。では、NSX-Tをここまで走らせ続けるために、大井さんはどのようなメンテナンスを施してきたのだろうか。前篇の今回はまず、大井さんのスポーツカー人生を紐解きながら、NSX-Tとの出会いについて迫ってみたい。



「子供の頃からクルマが大好きだったんです。特にスポーツカーには強い憧れを持っていたので、初めて自分で購入したクルマももちろんスポーツカー。その後も何台か乗り換えましたが、すべてスポーツカーです」
大のスポーツカーファンである大井さん。免許を取得したばかりの頃はまだ自分のクルマを持つことができなかったため、スポーツカーへの強い想いを抱きながらも、父親が所有していたセダンを借りて乗り回していた。
そして、いよいよ念願だったスポーツカーを手に入れることとなる。初めて所有するスポーツカー。父親のセダンとはまったく異なる、その胸のすく走りを思う存分堪能した。その後、友人が所有していたオープンカーに乗り、その時に味わった開放感にとりつかれた大井さんは、すぐにオープンカーを購入。同じ車種のものを2台続けて乗り続けた。
「2台あわせて約10年間は乗ったでしょうか。オープンにした時の爽快感が、さらに私をスポーツカーの虜にしましたね。そのクルマはルーフの脱着が可能なタイプだったのですが、ルーフを外すと途端にクルマの剛性が落ちてしまうのが気になっていたんです。高速道路のちょっとしたカーブでもクルマがきしんで、必要以上にロールするような感じがありました。オープンが好きで乗り続けてはいたのですが、その不満はずっと持ち続けていましたね」

大井さんは、スポーツカーを、そしてNSX-Tを愛して止まない。クルマについて語るその言葉にも熱が帯びる。
1990年、ちょうど大井さんがオープンカーライフを満喫している頃である。新世代のドライビングプレジャーを生み出すピュア・スポーツカー、NSXがデビューする。
NSXの誕生は、無論、スポーツカーファンである大井さんの触手も大いに動かした。しかしながら当時の大井さんにとって、“スポーツカー”と“オープン”は切っても切れない関係にあった。NSXに大き過ぎるほどの魅力を感じながらも、“NSXにオープンのモデルがあれば・・・”という切なる思いとともに、NSXの購入には足踏みをしていた。

しかし1995年、大井さんの耳にひとつのニュースが飛び込んでくる。NSXのオープントップモデル、NSX-Tの誕生である。ピュア・スポーツカーであるNSXが、ついにそのルーフを開け放った。大井さんは、一も二もなく、NSX-Tを購入することを決意する。選んだのは、マニュアルトランスミッション仕様のNSX-T。もともと大井さんは、クルマとの対話をより色濃く楽しむことができるMT車しか所有しないのだという。
「NSX-Tが発売になるという話を聞いて、もう無理をしてでも買おうと思いました。1990年のデビュー以来、NSXはずっと憧れの存在でしたからね。そして実際に乗ってみて、僕がそれまで乗っていたオープンカーとの違いに愕然としました。比べものにならないくらいボディ剛性が高く、高速道路のカーブなどでも、ボディがかっちりとしていてねじれる感じがないから、高速旋回でもまったく不安がないんです。NSX-Tの高い剛性には本当に驚かされましたね」

NSX-Tは、オープントップでありながらサーキットランを堪能できるリアル・スポーツカー。ドイツ・ニュルブルクリンクを十分に攻め込めるまでの高剛性を実現して生まれた、稀有なるオープンスポーツである。
「NSX-Tはシフトアップした瞬間、アクセルを踏み込むとクイックなレスポンスで気持ちよく加速してくれる。オープンでありながら、まさにリアル・スポーツカーと言えると思います。そんな高い性能もさることながら、街中を走っているときに感じる羨望の眼差しもまた、ちょっと気持ちいいんですよね。やはりNSXは、どこに行っても注目される。それは30万キロ走った今でも変わりませんね」

1995年に鮮烈なデビューを果たしたNSX-T。大井さんが所有するミッドナイトパープルのNSX-Tは、購入から10年経った今でもその存在感は薄れていない。
憧れだったNSX、そのオープントップモデルであるNSX-Tをついに手に入れた大井さん。実は当時、ご自宅のあった茅ヶ崎から千葉の浦安にある勤務先まで、毎日クルマで通勤していたのである。大井さんのNSX-Tがほぼ30万キロまでその走行距離を伸ばしている理由のひとつはそこにあった。
「NSX-Tを購入してから5年間くらい、毎日クルマで通勤していたのですが、一日の往復の距離はおよそ140キロ。走行距離が伸びるのも当然ですよね。当時はまだ首都高速道路の湾岸線が全面開通していませんでしたから、今ほど交通の便が良かったわけではありません。それでも毎日クルマで通勤していた理由は、やはりNSX-Tに乗るのが楽しくて仕方がなかったからです。抜群の運動性能と高速走行時の高い安定性を持った世界第一級のスポーツカーなのに、快適性という付加価値も兼ね備えている。とにかく楽しいんですよ、NSX-Tでの長距離の通勤が」

購入してから約6年もの間、走行距離がみるみる伸びていくのもいとわず、毎日のようにNSX-Tで通勤していた大井さん。リセールバリューを考え、あまり走行距離を伸ばさないように気を遣う向きもあるだろうが、大井さんは違う。
「私は、クルマというものは乗ってこそ価値があるものだと思います。言うまでもなく、クルマは走るための機械ですから、走るために負荷を掛けることに気を遣ってもしょうがないじゃないですか。私は、クルマを大切にするということは、クルマをとことん走らせてあげるということだと思うんです」
ただし大井さんは、徹底的に走り込むというスタンスだけでクルマに接しているわけではない。後篇で詳しく述べるが、NSX-Tをとことん楽しむために、大井さんは定期的なメンテナンスを欠かさず行っている。NSX-Tがつねに“健康な状態”にあるように、きちんと気を配っているのである。
この話を伺い、大井さんは本当にクルマが好きで、NSX-Tを愛していると感じた。30万キロの長きにわたってNSX-Tと付き合っているのも、愛あればこそだろう。大井さんのクルマに対するスタンスは、NSX-Tにとって間違いなく喜ばしいものではないだろうか。

もちろん、大井さんとNSX-Tとの30万キロという道のりは平坦なものばかりだったわけではない。
NSX-Tを購入した1995年にNSX fiestaに初参加し、翌1996年には、筑波サーキットで行われたHondaの主催する走行会にも参加した大井さん。一般道では決して体験できない、NSXが本来持つ奥深い性能を味わうことができるサーキットで、NSX-Tの走りを存分に楽しんでいた。しかしそこで、大井さんはNSX-Tに大きなメンテナンスを施すことになるのだ。
(後篇へつづく)
ドライバーズシートのレザーには所々にやや擦れた跡がある。しかしこれこそが、これまでの大井さんとNSX-Tとの30万キロの歴史を物語る証なのだ。 クルマは乗ってこそ価値がある、と大井さんは言う。だからこそ、NSX-Tを30万キロまで走らせ、そしてこれからも走らせ続ける。それが大井さんの愛し方なのだ。
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フッタ
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