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●NSX-Tと刻んだ、30万キロという道のり。< 後篇 >
大井さんのNSX-Tのバックショット。その艶やかなボディは、到底30万キロを走ったクルマとは思えない美しい光沢を放っていた。
念願だったNSX-Tのオーナーとなって約10年。そして、ともに駆け抜けた距離はおよそ30万キロ。その数字からもわかるように、大井さんのNSX-Tに対する愛情は非常に深く、そして大きい。
前篇では、大井さんのスポーツカー人生を振り返りながら、NSX-Tとの出会いについて紹介した。後篇の今回は、大井さんがNSX-Tを30万キロ走らせることができた秘訣に迫ってみる。その長い距離を走らせるために、大井さんは何か特別なメンテナンスを行っているのだろうか。また、NSX-Tを購入してから30万キロを刻むまでに、大井さんがNSX-Tを通じて手に入れた多くの“宝物”についても、熱く語っていただいた。



NSX-Tを購入した翌1996年、大井さんは、Hondaが主催し、筑波サーキットで開催されたNSXオーナーのための走行会に参加する。前年のNSX fiestaで鈴鹿サーキットを走って以来のサーキット走行に、大井さんの胸は大きく膨らんだ。ちなみに、購入してから半年あまりで、そのNSX-Tはすでに1万6000キロという距離を走っていた。
「NSX-Tを主に通勤手段として使っていた私にとって、サーキットを走るという経験は目からウロコの連続。また、サーキットでのNSX-Tは、まるで水を得た魚のように、その高いポテンシャルを私に披露してくれたんです。しかし、なかなか経験できないサーキット走行ということで気持ちが高揚していたのでしょうか、シフトチェンジを失敗してしまったんです。5速から4速にシフトダウンするつもりが、2速に入れてしまったために、エンジンがオーバーレブを起こしてしまいました」
NSX-Tが、サーキット上ではたと息を止めてしまった。急遽筑波サーキットから、NSX-Tを購入した地元のベルノ店まで運んでもらい、そこでエンジンを見てもらった。その結果、大井さんのNSX-Tはエンジン交換を余儀なくされてしまったのである。
 

愛車のエンジンルームを愛おしげに見つめる大井さん。ボディだけでなく、エンジンルームもとてもきれいだった。
初めて大がかりな修理が施された大井さんのNSX-T。その“大手術”を行った地元のベルノ店の当時の工場長は、大井さんがとても信頼を寄せている人物。大井さんが“職人”と呼ぶその工場長からは、NSX-T購入時より細かなアドバイスをもらってきた。実は、大井さんがNSX-Tを購入する際に工場長から送られた言葉こそが、NSX-Tをここまで“健康”たらしめているのである。
「オイル交換とメンテナンスをマメに行ってください。せっかく素晴らしいクルマを購入されたのですからね」
工場長のこの一言は、クルマを所有する方にとって、ごくごく当たり前の行為を言っているに過ぎない。しかし、その当たり前のことをついおろそかにしてしまうことも少なくないであろう。だが大井さんは、工場長からのその言葉を現在まで忠実に守ってきたのである。
「工場長からいただいたアドバイスをきちんと実践してきたら、NSX-Tはここまで走ってくれました。何も特別なことではありませんよね。オイル交換と定期的なメンテナンスという2つの作業を確実に行っていれば、NSXというスポーツカーは、世界第一級の性能を持ちながら、こんなにも長い距離を、大きなトラブルもなく走り続けてくれる。約30万キロ走った今、NSXの絶対的な信頼性をあらためて実感しています」
 
大井さんは6ヶ月に一回、必ずNSX-Tを点検整備に出し、そしてオイル交換を行っているという。NSX-Tの走行距離メーターに“29万7400キロ”という数字を刻ませているもの。それは、日常的な点検と細かなメンテナンスの積み重ねであると言っても過言ではない。
「メンテナンスの秘訣なんて大それたことはありません。強いて言うなら、当たり前のことを、確実に実践してきた。ただそれだけですね。もともと高い信頼を誇るHondaのクルマだからこそ、そしてそのHondaのフラッグシップスポーツだからこそ、NSXはマメに点検を行ってさえいれば、本当に長い距離をともに走ることができるのだと思います」
 

リアウィンドウ脇に誇らしげに貼られていたNSX fiestaやOwner's Meetingのステッカー。このステッカーの数だけ、大井さんは素晴らしい“宝物”を手に入れてきたのだ。
また大井さんは、1998年、走行距離が6万9000キロのときにNSX-Tを一度だけリフレッシュプランに出している。リフレッシュプランから戻ってきたNSX-Tに乗り、大井さんは “まるで新車のような感覚が戻った”ことに驚いた。
「大げさではなく、NSX-Tが新車同様になって戻ってきたんです。驚いたのは、リフレッシュプランに出したときと比べて、車高が明らかに高くなっていたこと。減衰力の低下したダンパーを交換したせいだと思いますが、その“若返り”ようには感動しましたね。買い換えるのに比べて格段に安い費用で、クルマが新車のように甦る。これは他のクルマにはない、NSXならではのメンテナンスですよね。もちろんリフレッシュプランの後も、定期的な点検整備は欠かすことなく行っています。やはり基本は、マメなメンテナンスやオイル交換だと思っていますから」
 
長きに渡ってNSX-Tとともに過ごしてきた大井さん。無論、NSX-Tというクルマを愛するからこそ、きちんとメンテナンスを続けているのだが、約10年もの間、欠かすことなく定期的なメンテナスを継続してきた理由がもうひとつある。それは、いつまでもNSXオーナーであり続けるためなのだ。
「1995年にNSX-Tを購入して以来、これまで一度も欠かすことなくNSX fiestaに参加してきました。私はそのイベントを通じて、本当に素晴らしい仲間たちとの出会いを手に入れることができたんです」
大井さんは熱のこもった口調で語る。そう、その出会いこそが、大井さんがいつまでもNSXを手放すことなく愛し続ける理由なのだ。写真でもおわかりのように、大井さんのNSX-Tのリアウィンドウには、これまで参加してきたNSX fiestaやNSX Owner's Meetingのステッカーがびっしりと貼られている。このステッカーの数からも、大井さんのNSX fiestaに対する思い入れの深さをうかがい知ることができる。
「参加し始めた頃のステッカーなんて、今ではボロボロになってしまいました。汚らしいから剥がせば、とも言われるのですが、それぞれのイベントに思い出がありますからね。まったく異なるフィールドの人たちが、NSXというクルマを軸に集い、語らい、そしてサーキットで走りを楽しむことができるNSX fiesta。当然ですが、このイベントはNSXオーナーでなければ参加できないもの。つまり、私はNSX-Tというハードを購入することで、“人と人との繋がり”という素晴らしいソフトを手に入れることができたんです。そして、これからもNSXを通じてたくさんの方々と出会いたい。だから、私はずっとNSXに乗り続けるんです」
NSXという一台のクルマを中心に形成され、そして広がっていく、人と人との新しいコミュニケーションの輪。NSXのオーナーは、クルマという存在に対して確固とした信念を持ち、NSXの優れた性能を本当に理解している人ばかりだと大井さんは言う。だからこそ、そんなオーナー達が集まったときには話題が尽きることはない。1年に1度だけ開催されるNSXオーナーの祭典、NSX fiesta。大井さんは、2005年度のイベント開催を早くも心待ちにしていた。
 

リアウィンドウの中央にはNSX-TCのオリジナルステッカーも。現在13名が所属するNSX-TCでは毎年独自のイベントを企画して、NSXオーナー同士の親睦を深めている。
また大井さんは、1995年の秋に開催されたNSX fiestaで出会った仲間たちとともに『NSX-TC』というチームを結成し、それから約10年が経過した現在でも、全国各地へのツーリングやレーシングカート、またゴルフなど、さまざまな形でオーナー同士の交流を深め、NSXライフを満喫しているという。NSX fiestaをきっかけとして、その枠を飛び越えて生まれた新たなネットワーク。結成当初は4名だった『NSX-TC』のメンバーも、今では総勢13名にまで増え、チームに所属する方々も全国へと広がっている。大井さんがNSX-Tを通じて手に入れた“宝物”の話は、ここでは語り尽くせないほど大きく、そして貴重なものになっているようだ。またインタビューの最後に、大井さんからこんなエピソードもうかがうことができた。
「1月になると『NSX-TC』の仲間のうち、関東近郊のみならず、北海道や香川県に住んでいるメンバーまでもが集まり、私の勤務する病院に来て、みんなで健康診断をしていくんです。一泊二日の健康診断を終え、その後に近くのお寺までお参りに行って、そしてNSXについて語り合いながら夕食を一緒に食べる。それがここ数年の恒例の行事になっているんです。みんなに会うたびに、本当に素晴らしい仲間に出会えたと実感しますね。これもすべて、NSX-Tがあればこそです。30万キロという距離はひとつの通過点。これからも、NSX-Tとともに、たくさんの歓びに出会えることをとても嬉しく思いますね」
 
30万キロを大井さんとともに駆け抜けたNSX-T。その表情は、到底走ることを止めそうにない、未来への熱い意志を湛えていた。ミッドナイトパープルのNSX-Tは、これからも着実に走行距離をメーターに刻むと同時に、大井さんの心にも数え切れない歓びを深く刻み込んでいくだろう。
(終わり)
これからも大井さんとNSX-Tはともに走り続けていく。その道のりの中で、再びたくさんの“宝物”に巡り会っていくことだろう。
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フッタ
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